味の見聞録
焼き魚定食
素朴なだけに質の善し悪しが際立つ
心がほっとするあったか定食

食べるたびに「やはり焼き魚が一番だね」といわせてしまう力強さと、
毎日食べてもあきない温かさが宿った、日本人のDNAをくすぐる料理、
焼き魚定食の優れた店をご紹介。

はせ川 神保町 
焼き魚定食一筋三十数年の
誠実に満ちたおいしさ  
    

庶民的な値段で、すこぶる上質な焼き魚定食に出合える店。カウンター十二席は、開店と同時に埋まり、行列ができる。
満席の中、「さばの尻尾ネ」、「かまに中落ち、ちょうだい」、「銀だらに半熟卵つけて」、「えぼ鯛にごぼうサラダ」と、常連たちから淀みなく入るわがままな注文を、厨房で働く三人のおばさんたちが、てきぱきとこなしていく姿は圧巻。
定番の「鮭の切り身定食」千円は、艶やかな焼き上がりで焼きむらもなく、腹側の脂は適度に落とされながら、皮は焦げずにカリッと焼かれている。箸をつければ、身はほろりとはがれ、しっとりと焼き上がった身から旨みが流れ出て、ご飯を猛烈に呼び込む。鮭の塩焼きの旨さを見直す逸品。
そのほか、開店と同時になくなる、脂がのった人気の「鮭かま定食」、脂のきれがいい上品な味わいの「塩さば」千百円(頭よりか尻尾よりを選びましょう)や、しみじみとした旨さが滲む「えぼ鯛」、身が弾けるような「銀むつ西京焼き」千二百円など、焼き魚定食一筋三十数年の誠実に満ちたおいしさに出合える。小皿三百円で「中落ち」を追加するのも良い。
ご飯も味噌汁も上等、つい近隣に働く人をうらやましくなる食堂である。

はせ川 
千代田区神田錦町3-20 神田ユニオンビル1F
tel.=03-3291-9146
営業時間=11:00〜15:00
定休日=土曜日・日曜日・祝日


ゆたか 麹町 
的確な塩加減と精妙な火の通し
値は張るが十分に価値あり  

関西割烹「出井」の流れを組む割烹。現在は先代に学んだ板前さんがあとを継いでいる。昼は、四〜五種類の旬の魚による焼き魚定食が用意される。店内はカウンター席に個室座席一つ。
注文の後にじっくりと焼かれた魚たちは、いずれも的確な塩加減と精妙な火の通しで、生き生きと食べ手に迫ってくる。皮目に焦げもなく、パリッと香ばしく、身はしっとりと焼かれ、食べ進むほどに味わいが豊かになるめばるやいさき。脂がのってワタがほの甘い、秋刀魚や鰯、こっくりとしたつけ地の甘さを山椒で引き締めるあいなめの山椒焼き、身に箸を入れた瞬間、甘い湯気が立ちのぼる太刀魚の塩焼き、分厚い切り身の上で、脂がジュッジュッと踊る時鮭の塩焼き。あるいは値が張るが、夜に出される名物、「鯛かぶとの山椒焼き」や「きんきの若狭焼き」(各三千円)で定食としゃれる贅沢もある。鮭を除けばいずれも一尾付けで、脂がのった背や腹、繊細な尾の部分、それに頭や目玉肝と、魚を存分に楽しめる。もちろんご飯も味噌汁もお新香も質が高く、申し分ない。町で見かける焼き魚定食より値は張るが、価値は十分。食べ終わると、思わず背を正し、「ごちそうさま」と手を合わせてしまう、健やかで清々しい焼き魚定食である。予算二千円〜。

ゆたか
千代田区麹町3-2 相互麹町第一ビルB1F
tel.=03-3261-6180
営業時間=11:40〜13:30、17:00〜21:00
定休日=土曜日・日曜日・祝日


ぎん香 麻布十番 
一口で顔が崩れ、
舌に旨みがぐいぐいのってくる力 

麻布十番や銀座で定評を呼んでいる自家製干物の「あん梅」の支店。カウンターにテーブル席一つ。
店に入るとまず目につくのが紅殻で焼きつけた竈と炭火の炉である。竈の火床には、薪がくべられており、ここでじっくり干物が焼かれるという算段だ。鰯の丸干し定食千五百円は、丸々太った鰯の丸干しが店頭の売り場より運ばれ、炉の火にかけられる。焼き上がりを待つ間に運ばれる付け合わせは、平目の造り、菜の花白和え、くわいの素揚げ、大根と豆腐の炊き合わせ、出し巻き卵など。お造り類は、木製の氷式冷蔵庫より出されて盛られる。鰯の丸干しを頭からバリッとかじれば、苦味と凝縮した旨みが広がり、粒が立ってぴかりと光った甘みにあふれた薪炊きご飯が、その旨みを受け止める。また鯖は、余分な水分が抜け、程よく塩が回り、滋味が凝縮された分厚い鯖。一口で顔が崩れ、舌に旨みがぐいぐいのってくる力がある。

ぎん香
港区麻布十番2-19-2
tel.=03-5439-6938
営業時間=11:30〜15:30、18:00〜21:00
定休日=日曜日


中川 新橋 
種類が豊富な焼きたての魚が
七百五十円からという廉価で楽しめる 

焼き魚定食を食べ歩いていて不満に思うことは、焼きたての店が少ないことと、種類多く揃えていないこと。初老の男性客を中心ににぎわう酒亭中川の昼定食は、そんな不満を吹き飛ばしてくれる。
ある日の焼き魚は八種類。脂ののった秋刀魚やさば、鮭の塩焼き、しっとりと焼き上げられた身がほんのり甘い、えぼ鯛の開き、しっかりと甘辛い味付けながら、きりっと味がしまった鮪や鰆の照り焼き、甘さが程よく、ご飯を呼ぶ赤魚の粕漬け、ふっくらと膨らんだ身が食欲をそそる、穴子の照り焼きなど。しかも七百五十円からという安さ。さらには、きんぴら、かぼちゃの煮物、卯の花、ひじきといった小鉢が、百五十円で多数用意されている点もうれしい。

中川
港区西新橋1-14-8
tel.=03-3591-2976
営業時間=11:30〜14:00、17:00〜21:30
定休日=土曜日・日曜日・祝日


とゝや魚新 赤坂 
お新香類、ご飯、味噌汁も申し分ない
曇りが一点もない見事な定食 

食い切りと称した料理が人気の割烹。凛とした空気が流れる店内にて食べる定食は格別。カウンターにテーブル席二つ。
ある日の昼は、えぼ鯛、鰆かま焼き、平政かま焼き、鰆西京焼きの四種類。まずは、しっとりと仕上がった穴子のおから和えが突き出しとして出され、ややあって焼きたての魚が出る。塩がきちんとたって、魚の甘みが引き出され、骨の周りまで程よく火が通った上質の焼き魚。焼きむらもなく、美しい。鰆のかまは半身分で、脂がのってしゃぶりつく醍醐味があり、えぼ鯛は、ふっくらと仕上がってほの甘い滋味が滲み出る。春のかます、甘鯛なども魅力。みず(東北の山菜)の梅肉和えや生姜の醤油漬けなどのお新香類、ご飯、赤出汁の味噌汁も申し分なく、曇りが一点もない、見事な焼き魚定食である。千八百九十円。

とゝや魚新
港区赤坂5-1-34   
tel.=03-3585-4701
営業時間=11:30〜14:00、17:00〜21:30
定休日=日曜日・祝日(土曜日は夜のみ)


三亀 銀座 
吟味された旬の素材
割烹ならではの質の高さ 

昭和二十一年創業の割烹。渡辺淳一の小説に登場したことでも知られる。清潔感あふれる店内は、カウンターにテーブル席二つ。この店の昼定食は一種類。刺身と焼き魚、もしくは煮魚という二種類の料理が付く定食。しかも両者ともにすこぶる質が高いので、心ゆくまで日本人ならではの喜びをかみ締めることができる。
磨き抜かれた白木のカウンターに座り、本日の刺身と魚の種類を聞くときの気分のよさ。ある日は、ほんのりと飴色がかった平目のお造りと、ヒレを立て、さあ食べろとばかりに食べ手をあおる、いさきの塩焼き。平目はほの甘みがあって質の高さを感じさせ、いさきは大胆な塩によって持ち味を余すことなくひき出されている。
ある日は、鉄分と脂が程よく合わさっためじ鮪のお造りと、ほの甘いたかべの塩焼き。またある日は、切れ味の良い上品な脂がのっためじ鮪の中トロとこっくりと甘い、魚の味を生かした真名鰹の照り焼きに、鯛の潮汁といった具合。いずれも吟味された旬の素材が割烹ならではの包丁の冴え、塩加減、的確な火の通しによって、生き生きと映える、清々しい定食である。
さらに添えられる、おからなどの小鉢、艶々と光るご飯、お新香、大根のつま、根三つ葉と豆腐など旬の種による赤出汁椀、デザートの果物、食前のお茶といった脇役陣も手抜きなく、丁寧な仕事が光っている。

三亀
中央区銀座6-4-13 
tel.=03-3571-0573
営業時間=12:00〜13:30、17:00〜22:00
定休日=日曜日・祝日


やんも 南青山 
丁寧な仕事による焼き魚定食が味わえる
伊豆の魚を中心とした人気の酒亭 

伊豆の魚を中心とした人気の酒亭。昼時は、五十人は入る広い店内が、開店と同時に満席となる。
昼の焼き魚定食は六種類。ある日のそれは、「塩さばの塩焼き」千円、「鰆の西京焼き」、「秋鮭の塩焼き」、「秋さばの味噌漬け焼き」、「黒むつの柚香焼き」、「めぬけの鯛味噌漬け焼き」各千三百六十円。
上品な脂がのった塩さば、程よい甘さに抑えられた鰆、さばの脂と味噌味が相乗してご飯が進む秋さば、ぷりっと膨らんだ身がさあ食べろと誘う身の甘みに、鯛味噌の旨みが加わって思わず顔が崩れるは必至のめぬけなど、ご飯が恋しくなる焼き魚が揃っている。

やんも
港区南青山5-5-25 T・PLACEビルB1F 
tel.=03-5466-0636
営業時間=11:30〜13:30(土曜日12:00〜)、18:00〜21:30
定休日=日曜日・祝日



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