味の見聞録
中国小食堂
中国の料理人による ご当地郷土料理を味わう

従来の高級中国料理店に代わって、本土の味、
郷土料理を再現する小食堂が増えてきた。
そのほとんどが、中国の方が経営し鍋を振るう店で、
他では味わえない料理に出会える。

栄児家庭料理 
ベースは薄く、
アクセントは強めの奥深い料理 
 

板橋の駅から十分ほど歩いた住宅街にポツリと佇む。鍋を振るうのは四川出身の女主人周栄さん。料理はおなじみの四川料理が並ぶが、食べてみると香りと味が違うのに気付く。
例えば「中華風冷奴」七百円は、四川のザーサイと生姜を刻んだ上に、微塵のネギをのせ、熱い熱い山椒油をかけてある。その刺激的な香りと四川ザーサイの練れた塩気によって、豆腐が甘い。
昆布と春雨、胡瓜を淡い味でまとめ上げた「中華風サラダ」、噛水(調味料・スパイスを配合した煮汁)の香りと味が染み込んだ砂肝や玉子、手羽先などの前菜。山椒の華やかな香りが食欲を刺激する「棒棒鶏」、キャベツではなく、ピーマンと青唐辛子、ネギを使った「回鍋肉」千三百円は、他とは違った姿で、厚切りにした豚バラ肉の締まった脂の甘みが生きている。
なかでもおすすめは、「蒸し茄子」千円。熱々の茄子の甘みに、花椒、細かく刻んだ青唐辛子、焼ピーマン、ネギ、胡麻、ニンニク、豆板醤、醤油、ラー油、砂糖、生姜などの複雑な香りとコクが入り混じって、陶然となるは必至。
締めは「麻婆豆腐」にご飯か、「担々麺」七百円で悩むところ。前者は、一見あっさりとしていながら深みのある味わい。後者は、一口で汗が吹き出る辛さながら、ベースになったスープの透明感のある優しい味にひかれて飲み干してしまう。
どの皿も優しい味わいながら香りが複雑で印象を残す。辛くても奥底に温かみがあるのは、冬の海は怖いけど入ってみたら温かかったという感じか。あるいはお化粧に似て、ベースは薄く薄く、アクセントは強めといった、奥深い料理である。

栄児家庭料理 
板橋区板橋3-34-12
tel.=03-3961-9188
営業時間=11:30〜14:30、17:30〜22:30
定休日=日曜


蔡菜食堂 
脂っこくなく、濃い味わいでもなく、
毎日食べても飽きない淡い味わい 

上海出身の蔡さんと奥さんの二人で切り盛りする小食堂。前菜が約五百円、主菜が七百円〜と、普通の中華食堂と変わらぬ値段ながら、旨み調味料や砂糖、濃い味つけでごまかすことなく、手抜きのない丹念に作られた上海料理がいただける。
まずは奥さんの漬けた、緑の「ザーサイ」二百五十円の痛快な食感を楽しもう。ネギ油の香りを利かせた里芋がねっとりと甘い「里芋」五百円、しっとりと蒸し上がった「地鶏の老酒蒸し」、香り高くまろやかな甘みが頬を緩ませる「チャーシュー」、ほろりと口の中で崩れる「豚足の醤油煮」、前職の焼き鳥店譲りの「レバーパテ」といった前菜を頼んでみてはいかがか。
主菜は、火の通しがきちんと行き届いた「ニラ、モヤシ、豚肉の炒め」七百五十円、ふっくらと膨らんだ玉子とエビの甘みが旨い「エビと玉子の炒め」千円、まろやかな酸味の中で豚の香りが生きた「スペアリブの黒酢炒め」千円などがおすすめ。
点心では、鶏もみじでとったスープが滋味深い「水餃子」三個三百円、もっちりとした、歯を押し返すような皮がおいしい「上海生煎包」三個五百円がいい。
締めは、パラリと炒められた「炒飯」七百五十円や、練れた塩気が利いた「ナンプラーとアンチョビ風味の焼きそば」七百五十円で決まり。いずれも余分な旨みを加えず優しい味に仕上がっている。脂っこくなく、かつ濃い味わいでもなく、毎日食べても飽きない淡い味わいの中国料理。

蔡菜食堂 
中野区中野3-35-2
tel.=03-5385-6558
営業時間=17:00〜23:00
定休日=水曜


黒猫夜 
珍しい料理と数ある紹興酒
組み合わせのバリエーションを楽しむ 

中国に仕事で通ううちに、酒のバリエーションと奥深さ、日本にはない食材の豊かさに心打たれ、店を開けるに至ったという日本人男性がオーナー。
まずは、食べた後から紹興酒の香りが立つ「枝豆紹興酒漬け」四百三十円、玉ネギ、ニンニクの茎、パプリカと炒めた、漬け込み汁が染みた柔らかい「百家風鴨舌炒め」九百八十円などで数ある紹興酒を試してはいかがか。迷うならお試しセットで。伝統的な味わいで濃密なブランデー風「東湖(トンフー)十年 」、あっさりとした味わいの「黄中皇(ファンジョンファン)十年」、洗練味が漂う「孔巳乙(コンイーイ)十二年」が注がれる。ちなみに一般的な紹興酒も注がれるので、飲み比べて品格を感じるのがいいだろう。
主菜では、塩加減が精妙で、マコモタケの優しい香りとハムユイのクセを引き立てる「マコモタケ ハムユイの香り炒め」九百八十円。鰻を切り離さないよう深く包丁目を入れて、味噌、山椒、ニンニク、ネギで鰻の脂にぶつけた「百家風特選活鰻の姿蒸し」千八百円。山椒と唐辛子でピータンを崩さないように見事に炒め上げた「麻辣皮蛋」七百八十円といった珍しい料理を頼んでみるのがおすすめ。
さらには、炒めた汁がとんこつスープのように乳化した「空心菜の腐乳炒め」、豆とニンニクを利かせデミグラスソースのような滋味深い煮汁を添えた「活き〆スッポンの蜜醤土鍋」千九百円。内臓が好きなら、表面はバリッと中はぐにゃりと脂が甘い「豚の大腸一本揚げ甘酢ソースがけ」八百八十円がおすすめ。このあたりから酒を白酒に換え、フルーティーな「景陽春(ラオハイ)」やフルーティーながらクセが光る「酒鬼(ジョウグイ)」あたりを試してみよう。
スープなら「ひな鶏の薬膳スープ」千二百円がいい。滋味深いクリアーなスープに鶏モツの風味、ほのかに山ウドやワイサン(乾燥山芋)のえぐみが滲み出た、飲むほどに引き込まれる味わい。強烈な醗酵臭と塩気で酒飲みを魅了する「北京のくさい豆腐」五百八十円には、「五浪液」のクセをぶつけた後、香り高い「杏仁豆腐」三百八十円で締めを。

黒猫夜
港区赤坂3-9-8 篠原ビル3F
tel.=03-3582-3536
営業時間=11:30〜14:00、18:00〜24:00
定休日=日曜・祝日


永利 
中国東北地方の家庭料理が
七十種近く揃う 

店に入った瞬間、ここは中国かと思うほど中国人客の比率が高い。皆が大皿を取り合いながら、大声で談笑している喧騒の中、小姐が飛び回るように、皿を持ってテーブルの間を縫う。
七十種近くある料理は、東北地方の家庭料理が中心。人気の「醤大骨」八百円は、豚の背骨を、醤油、砂糖、紹興酒、八角、花椒、丁子などとともに、寸胴鍋で数時間かけて煮込んだもの。複数のスパイスと肉から出たエキスと調味料が入り混じった味わいは、酒を呼ぶ。白酒片手に骨を持って噛り付けば、病み付きになるは必至。
「三鮮水餃子」十個八百円は、もっちりとした歯を押し返すような皮の弾力と、肉と野菜のほの甘い餡が魅力。胡瓜、人参、木耳などの細切りと板春雨を芝麻醤と唐辛子にあわせて食べる、前菜に必ず頼みたい名物「東北大拉皮」千二百円、ごろりと大きな黒い肉の塊が三つほど皿に載った「酢豚」九百八十円もぜひ。
締めはあっさりとした味わいの中からアサリの旨みが滲み出た「アサリの焼きそば」がおすすめ。いずれの皿も量が多く、二〜三人前と考えたほうがいい。

永利
豊島区池袋1-2-6 ベルメゾン池袋
tel.=03-5951-0557
営業時間=11:00〜24:00
年中無休


茉莉 
中国人客の要望に応えた
本格北京料理 

常連客が、ラーメンと餃子やニラレバ炒め定食を食べているような、一見どの街にもある、早くて安い、普通の中国料理店。
しかし一方で、中国人客の要望に応えた北京料理も置く。その一つ、「木須肉(豚、胡瓜、木耳の炒め)」九百円は、胡瓜のコリコリとした食感を活かしつつ、木耳や人参の歯ざわり、ふわりと崩れる玉子に加え、黄花菜(中国の細い筍)の食感を加えるなど本格的。
塩味でさっくりと炒め合わせた「セロリと金針菜(百合の花のつぼみを蒸して乾燥させたもの)炒め」七百円、「モヤシ山椒炒め」三百八十円、「エビ春巻き」五百五十円など、小皿も用意されているので、こいつを肴に一杯やるのもいい。

茉莉
中野区東中野3-11-7
tel.=03-3364-0184
営業時間=11:30〜14:30、
17:30〜23:00(日曜〜22:30)
定休日=不定休


もどる

このホームページに掲載のイラスト・写真・文章の無断転載を禁じます。
すべての著作権は、株式会社 味の手帖に帰属します。