味の見聞録
美人女将の和食店
心が和む酒の肴は
うまい料理と、女将との楽しい会話

和牛料理 さんだ 
小鉢に入れた肉料理を次々と供す
肉料理の新たな方向を示す肉割烹 
 

初めてこの店を訪れた時、道順を尋ねるために電話をすると、「今どちらにおいでですか」と女将さん。「赤坂見附駅です」と答えると、「今お迎えに上がります」と、女将さんが小走りで出迎えてくれた。細身の体に着物をさらりと着こなし、割烹着をつけた女将さんは、よく気付き、酒の薦め方もよどみなく、肉割烹「さんだ」に欠かせない存在だ。
さんだは、小鉢に入れた肉料理を次々と供す、肉料理の新たな方向を示す肉割烹。まずは、コリコリとした食感のアキレス腱の、フグ皮風ポン酢仕立てに始まり、プリッとした歯応えの大動脈に唐辛子や胡麻油を合わせた中華風小鉢、蛤の皿に盛った膣、子宮、ペニスの子宝盛り、辛子醤油につけて食べる茹でたフワと続く。その他牛タン団子のスープ、ハツ刺しのぬた風、岩塩で味わうレバ刺し、ネギと合わせたネギトロ風ハラミ刺し、牛スジの煮込み、頬肉のシチューと十種の小鉢が出される。いずれも酒が進む一皿で、絶妙な間合い。
小鉢の後はミノ、シビレ、タンシタ、ギアラ、ハラミ、頬肉の六部位が一種類ずつ焼かれる。その後タンの薄切りで水菜を巻いてダシに潜らせ、ポン酢でいただくタンしゃぶ、しゃぶしゃぶのスープを使ったラーメンで締め、黒胡麻アイスでお終い。
お任せコース六千五百円のみ。酒は日本酒焼酎のほか、モルドバのワインも。ご主人石井正敏さんの話術も楽しい。

和牛料理 さんだ 
港区赤坂3-19-3
tel.=03-5570-1129
営業時間=17:30〜23:30
定休日=日曜・祝日


きく 
高級割烹風料理から惣菜料理まで
すべて丁寧な仕事が光り、はずれがない 

「はい、きくです」。銀座の酒亭「きく」に電話をすると、女将さんの明るい声が返ってくる。店に誇りを持ち、働く喜びが滲み出た快活な声に、活力が湧き、猛然と腹が減ってくる。紺地の着物に割烹着をつけた女将さんは、くるくると動く可愛らしい丸い目で店内の動きを感知し、客の酒の進み具合、食事の進み具合などを見て、的確な指示を板場に通す。その指揮ぶりはお見事。
食事は、鱧や鰹、マグロなど質の高いお造り類に始まり、キンキ一塩、鮎風干し、柳カレイひと干し、アワビバター焼き、松茸土瓶蒸しといった高級割烹風料理から、肉じゃが、コロッケ、メンチカツ、芋サラダ、サンマ塩焼き、イカ大根煮といった惣菜料理まで、すべて丁寧な仕事が光り、はずれがない。中でも常連客の間で人気なのが、小アジフライ。小ぶりなアジを揚げただけのものだが、カリッと音が響くように揚げ切りよく、香ばしく揚げられたフライは、口の中でホクホクと崩れ、笑顔を呼ぶは必至。
一人予算七千円〜一万三千円。階下まで見送り、角を曲がるまで見届ける女将さんに別れを告げる頃、また来たくなってしまうような店である。

きく 
中央区銀座8-4-3 山田ビル2F
tel.=03-3574-7237
営業時間=18:00〜翌2:00頃
定休日=土曜・日曜・祝日


三櫂屋 
全国を探しあぐねて手に入れた豚肉
女将が名物豚しゃぶの食べ方を伝授 

綺麗に上げた髪に、ふくよかな笑顔を浮かべる女将さんの名前は「たまさん」。江戸下町噺を彷彿とする通称で客より愛されている。薄小豆の着物を粋に着こなし、割烹着姿で、名物豚しゃぶの食べ方を伝授してくれる仕草がしなやかで艶っぽい。
その豚しゃぶは、全国を探しあぐねて手に入れた豚肉と、その豚肉のうまみを生かすための炭火の熱源と、昆布ダシ、酢と生醤油のつけだれに、豆腐と長ネギのみ。ふつふつと沸き上がるダシにさっと潜らせ、ややピンク色になったときに素早く引き上げ食べる。薄い肉ながらもたっぷりと肉汁があり、なによりも豚肉が持つ甘みと栗のような香りが口いっぱいに広がって陶然となる。また軽く煮たネギを豚肉で巻いて食べても美味。
最後は生醤油をかけ、スダチを搾って食べる左平次うどんであっさりと締める。豚しゃぶ一人前、三千三百六十円。但しうますぎて数人前おかわりしてしまうこともあり。要予約。

三櫂屋 
新宿区舟町4 北村ビル2F
tel.=03-3351-3477
営業時間=17:30〜22:30(日曜〜21:30)
定休日=土曜・祝日


津やま 
深々とした味わいのダシに、野菜や豚脂が光る
名物一つ沢煮椀 

小泉元首相行きつけの店として有名になったが、かつて銀座にあった幻の名店「わたき」出身のご主人が営む、名割烹。現在はご主人の娘さん二人が女将さんを務める。お姉さんは名指揮者。気さくな語りかけで客の心を緩め、適妙かつさりげない気配りで、客をリラックスさせる。妹さんは、例えばある日、ベージュに紋入りの麻上布の着物に、水色の紬の帯と朱色の帯締めを締めて、店に華やかさと粋を漂わせている。年配の地位の高い方が多く常連としている店だが、決して敷居は高くなく、温かな雰囲気をかもし出しているのは、二人の女将によるところが大きい。
料理は、鱧松茸椀、甘鯛若狭焼、鯛の酒蒸し、オコゼ唐揚げ、フカヒレとアワビの煮もの、スッポン料理などから、エビフライ、キンピラ、卯の花、サンマ塩焼きといった馴染みの深いものまで幅広く揃え、屈強な常連たちの舌を楽しませている。
名物の一つ沢煮椀は、深々とした味わいのダシに、しゃっきりしんなり丁寧な仕事によって細く細く切りそろえられた野菜類や豚脂が光る逸品。またトマトの酸味や甘みとダシのうまみ、鴨の滋味が共鳴する、夏の名物「冷やしトマト」。風味が生きていながらも胡麻や調味が出過ぎない、素晴らしい塩梅の胡麻だれによる、これまた名物「鯛茶漬け」。その他「豚角煮」、「いり豆腐」など、風格ある正統な味わいがしみじみと舌を魅了する。予算約三万円。

津やま
港区赤坂2-14-7
tel.=03-3583-2482
営業時間=17:30〜22:30(昼は予約営業)
定休日=日曜・祝日


小料理 菜の花 
実質的な肴に酒が進み、
若女将との会話が弾んで酒が進む 

荒木町に数多くひしめく小料理屋の中でも、可愛らしい、明朗な性格で一際光る若女将、高橋三菜子さん。粋な縦縞の着物に赤いタスキに割烹着、カラフルな蝶の髪留めをつけ、彼女との会話を楽しむ客が連夜絶えない。カラカラと豪快に笑う白い頬に浮かぶえくぼがステキ。できますものは、お造り各種、牛蒡の唐揚げ、ハムステーキ、五目豆にコロッケなどなど。気取りのない、実質的な肴に酒が進み、若女将との会話が弾んで酒が進み、愉快な夜は更けていく。

小料理 菜の花 
新宿区荒木町8-1 根本ビル1F
tel.=03-3356-2616
営業時間=18:00〜23:00
定休日=土曜・日曜・祝日


すっぽん さくま 
恍惚を覚える
清楚な美人女将とスッポン鍋との出会い 

赤坂の閑静な裏路地にたたずむ堂々たる日本家屋。風格漂う門を潜り、女将佐久間みどりさんに出迎えられる。靴を脱いで赤い絨毯の上を通り、時が染みた座敷へと案内される。女将の娘さん、かおりさんとあかねさんの二人も女将さん似のはっと胸を突かれるような清楚な美人。美人女将とスッポン鍋との出会いに恍惚を覚えるのは筆者だけだろうか。
鉄分溢れる生き血に続いて、濛々たる湯気を上げ、音を立てて黒い鍋が登場する。浜松・舞阪産の五~六年もののスッポンを捌き、水と酒、三種類の醤油で炊き、一昼夜寝かして再び沸かしたもの。たくましい歯応え、一切れ食べただけで粘りつくゼラチン質と甘み、ねっとりとうまい肝、噛み締めるほどに滲み出る滋味。鼈甲色のスープもスッポンの野生に負けぬよう、生姜、酒、醤油強く、濃厚。締めは玉子入れず、濃厚スープを堪能するもち入り雑炊。一人予算約三万五千円。

すっぽん さくま
港区赤坂4-5-20
tel.=03-3584-6891
営業時間=18:00〜22:00
定休日=土曜・日曜・祝日


七丁目 京星 
柔和な笑顔が魅力的な女将さんがお出迎え
サクッと香ばしく揚げられた多彩な天ぷら 

ビルの三階でひっそりと営む天ぷら屋。引き戸を開けると、柔和な笑顔が魅力的な女将さんに迎えられる。ご主人と奥様である女将さんの二人で切り盛りする小体な店。洋装に割烹着をつけた女将さんは口数こそ少ないが、かいがいしく働き花を添える。
先付けとして、小芋と塩辛、もしくは蒸し鮑のゼリー寄せと枝豆、鮑ともずくの酢の物と胡麻豆腐などが出され、天ぷらが揚げられる。薄く軽い衣はサクッと香ばしく素材を閉じ込め、うまみを引き出す。パンで海老のすり身を挟んだものを頭に、二十三種ほど揚げられる。中心を生にとどめた甘い才巻海老が合間に八本近く出るのが特徴。中には三十本近く食べる剛の者もいるという。その他たたんで合わせた虎ギス、赤南瓜、鶉の半熟玉子、山科唐辛子、栗の渋皮煮、胡麻蒟蒻などが他店には少ない仕事。天ぷらはすべて塩かレモン汁にて食べる。締めは天茶か天丼、掻き揚げと白いご飯を選べる。近々ビル改築のため一時休業予定。昼二万五千円〜、夜三万円〜。

七丁目 京星
中央区銀座6-4-7 ファーストビル3F
tel.=03-3572-3568
営業時間=17:00〜21:00(昼は予約営業)
年中無休(年末年始・夏期休業あり)


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