郷土鍋(1)
大地の恵みを盛り込んだ地方色豊かな冬のご馳走
鍋がおいしい季節がやってきた。 東京にいながらにして、日本全国の郷土に根付いた鍋を食べる喜び。 土地の人の知恵と恵みをいただく幸せ。 そんな宵を過ごせる店を二カ月にわたり、ご紹介。
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みぢゃげど
昔ながらの津軽の真の味わいを今に伝える
「鴨鍋」「真鱈のじゃっぱ鍋」
津軽言葉で、「台所への道」(「みぢゃ」は水屋(台所)、「げど」は街道)と名づけられた店は、創業三十三年。下町情緒あふれる谷中の住宅街にひっそりと店を構えている。
のれんを潜ると、「おいでさまです」と明るい声で挨拶してくれるのは、名物女将の北澤美枝さん。津軽に十九代続く旧家で、その家は重要文化財となっている、御用商人「石場家」出身。昔ながらの津軽の真の味わいを今に伝える。 料理はコースのみで八千五百円。鍋は、十月から十一月上旬頃までの「鴨鍋」、十一月上旬から二月下旬頃までの「真鱈のじゃっぱ鍋」。
「鴨鍋」は弘前の小さな農家が育てた鴨を使う。噛めば肉質がきめ細かく、たくましさがあり、実に力強い。葱や人参、茸類などもすべて青森からの取り寄せで、鴨に負けない力強さ。食べ進むにしたがって、裕福な気分になる。切れがよく、鴨のうまみや脂がまろやかに溶け込んだ、醤油ベースの滋味豊かなスープもおいしい。
そしてなにより、寒さが厳しくなると、名物「真鱈のじゃっぱ鍋」の出番。青森から送られし、丸々太った真鱈を、野菜類とともに鍋に仕立てる。歯を押し返すように弾む、白き身肉のほの甘さ。とろりと舌を包み込むコラーゲンの甘味に目を細める唇や、目玉、しゃぶる楽しみにあふれたエラ。脂の乗った、なんとも上品な白子。鱈に力がある、誇りがある。鱈の生命力に鼓舞されて、次第に身体が上気していく喜びをぜひ。 さらに野菜の素晴らしいこと。鱈と拮抗するほどの力強さがあり、土の匂い、甘味に富んで、大地の凛々しさと温かさ、太陽の恵みを感じさせる。特に人参のたくましさがいい。食べていくと、体内に力がみなぎっていく感がある。
鍋の前に出る料理も、郷土色にあふれ、実直な骨太さに打たれる。噛み込むと、味が時間をかけて深みを増していく「身欠きニシン」、さもだし、なめこ、さくらしめじ、舞茸など、茸採り名人を自負する親父さんが、八甲田山や岩木山で採ってきた「茸のおろし」。 また、ジャキッと音が響き、実に甘い、三百年前より大鰐温泉にて温泉の熱気を使って栽培されてきた「もやしの炒め煮」、穏やかな甘味にあふれ、心がすうっと軽くなっていく「蒸し帆立の黄身がけ」も。
さらに、醤油につけずとも、うまみがねっとりと舌にしなだれかかる「寒平目の昆布〆」、米ではなく麹でつくるため、香りが華やかで、食べた瞬間に笑顔が浮かぶ「鮭の押し寿司」など。いずれも津軽に代々伝わる、世界に通じるご馳走である。
二月十三日から二月末まで年越し料理もあり。
みぢゃげど
台東区谷中2-5-10
tel.=03-3823-6227
営業時間=18:00〜22:00
定休日=土曜日・日曜日・祝日(土曜日は団体貸切の営業あり)
※ 要予約
天國
惚れ惚れするような美しい輝きを放つ
特上霜降り馬肉のしゃぶしゃぶ
上野公園内、西郷隆盛像近くにある馬肉料理の専門店。本店は熊本の有名店。カウンター、テーブル席、座敷席の個室にわかれた店内は、広々として清潔感に富む。 「馬肉しゃぶしゃぶ」は、一人前七千八百円(二人前〜)。シンプルな昆布ダシを煮立たせ、馬肉をくぐらせて、もみじおろしと鴨頭葱を落としたポン酢につけて食べる。
皿に十五枚ほど綺麗に並べられた馬肉は、惚れ惚れするような美しい輝きを放つ、特上霜降り肉。湯に三〜五回くぐらせ、まだ赤みが残るくらいで引き上げて食べれば、なんともしなやかな舌触りで、品のいい甘味がゆるゆると広がっていく。脂切れよく、しつこくなく、いくらでも食べられる。また、鍋を続けても、まったくアクが出ない。他の具は、白菜、椎茸、えのき茸、葱、大根、人参、春菊、しめじ、マロニー、豆腐。締めは中華麺。茹でた麺をスープにさっと入れ、別添えの醤油ダレをスープでのばし、食べる。あっさりとした味わいの中に、深い滋味あり。 その他、鉄分に富み、まったく臭みなく、こりこりとした食感が楽しい「レバ刺し」千八百円、柔らかな中に肉汁溢れる「フィレステーキ」二千七百円、様々な歯応えにとらわれる「ホルモン味噌煮込み」千六百円、茹でた大腸を炒め、にんにくチップを加え、九州醤油をあわせて軽く煮込んだ「ホルモン醤油炒め」千七百円などがお奨め。刺身盛り合わせ、ユッケなどがついた「しゃぶしゃぶコース」は九千円。 馬肉の魅力を様々な料理で楽しもう。
天國
台東区上野公園1-59 上野公園内西郷隆盛像横
tel.=03-3824-3211
営業時間=11:00〜15:00、17:00〜22:00(日曜日 〜21:00)
定休日=月曜日(祝日の場合は翌日)
鹿角
一つ一つの具が生命力を発揮
品のいい繊細なきりたんぽ鍋
西麻布の裏通りにひっそりと佇む秋田料理店。お目当ては「きりたんぽ鍋」三千三百円(一人前〜)。比内地鶏の滋味にあふれたスープに、きりたんぽ、比内鶏、白舞茸、芹、牛蒡、葱などが入る。 なによりも、あきたこまちを使ったきりたんぽが素晴らしい。もちもちしすぎず、米自身の甘味と香ばしさが口いっぱいに広がる幸せがあって、持ち味が見事に生かされている。その風味がダシに絡み、舌の上ではらはらと崩れていく喜び。実に品のいい繊細なきりたんぽ。もち米を入れず、半殺しにした米を、秋田杉の棒に巻きつけ、丁寧に焼き上げた保存食ならではの、うるち米のうまみが凝縮された素朴な贅沢を味わえる。
またスープは、食べ進むにしたがって、鶏のうまみが深まり、牛蒡や芹の香りが溶け込んで、より複雑に、より土着的に、より深くなって、しみじみとおいしい。
甘い芹の根、肉を噛み締める喜びを実感する、鍋によってこそ生きる比内鶏の身の締まり、鉄分に富むレバー、香りが爆発する舞茸、一つ一つの具が生命力を発揮して、身体が上気する。厳寒の秋田の地を、そこに住む人の知恵を痛感する。
鍋の前には、燻した鶏を散らした、香ばしい「燻製サラダ」小千五百円、こちらも香ばしさが命の、名物「いぶりがっこ」五百円、シンプルに焼くことによって香りが膨らみ、余分な水分が抜けて味が増す「舞茸の素焼き」千二百円、熟れたうまみが実に丸い「イカの塩辛の麹漬け」九百円などで酒を楽しむのもお奨め。 締めには、注文してから炊き上げる「白舞茸ご飯」五千六百円(二人前:吸い物・漬物付き)をぜひ。白舞茸の、胸を突き、鼻腔から抜けていく素晴らしき香り、天然ならではの野生を感じさせるほのかなえぐみが、もちもちと甘いあきたこまちと交じり合った幸せに、顔を崩すは必至。
鹿角
港区西麻布1-15-16 中沢ビル1F
tel.=03-3402-8212
営業時間=17:00〜22:30(L.O.)
定休日=日曜日・祝日
土佐料理 祢保希
洗練された土佐料理の魅力を存分に味わう
お奨め「鯨はりはり鍋」
都内に数店舗展開する大型店だが、どの料理も間違いのない丁寧な仕事が光って、洗練された土佐料理の魅力を存分に味わうことができる。鍋は「土佐和牛しゃぶしゃぶ」、春の「鯛しゃぶ」、冬時期の「クエ鍋」などがあるが、やはり土佐ならではの味で食べたいのが、「鯨はりはり鍋」四千五百円。 薄切りにされた鯨のうねす(顎下の部位)、赤身肉、さえずり(舌)を、調味されたダシにさっとくぐらせていただく。他の具は水菜に室戸深層水自家製豆腐と、いたってシンプル。中トロのような脂の溶けと、コリッとした皮下の食感を楽しむ、うねす。溶ける脂の甘味とふわりとした食感に思わず微笑む、さえずり。いい意味で獣臭く、ほんのり血の香りがして、噛み締めるうちに、これぞ鯨といいたくなる赤身肉。それぞれ部位ごとのうまみや食感の違いがあって楽しい。また醤油風味の上品な味わいのスープも、次第に鯨の脂のうまみが滲み出ておいしくなっていく。
締めはうどん。裏技として、自然な甘味が出た「焼きちくわ」を頼み、鍋に投入してもうまし。
その他、鮮度よく、ぐっと乗った脂の切れがいい「鰹銀皮造り」千五百円、丁寧に焼かれ、脂と肝に苦味やほの甘さなどがよく混ざり合った「秋刀魚肝焼き」七百円、口に広がるほろ苦さを楽しむ「どろめ(鰯の稚魚)」五百円など、おいしい魚料理で鍋の前に一献やるのもお奨め。 締めには、上品な脂が乗った「鯖寿司」千円もぜひ。
土佐料理 祢保希
港区赤坂3-11-17
tel.=03-3585-9640
営業時間=11:30〜14:00(L.O.)、17:00〜21:30(L.O.)
※土曜日は夜のみ営業 16:00〜21:00(L.O.)
定休日=日曜日・祝日
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