郷土鍋(2)
全国の当地ならではの 冬の味覚を東京で味わう
前月号に引き続き、鍋がおいしい季節にこそ食べたい、 日本全国の郷土に根付いた 鍋と、東京にて出会う喜びをご紹介。
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山さき
清涼で溌剌とした山の香りと濃厚な海の滋養が
鍋の中で抱き合う「ねぎま鍋」
江戸料理を受け継ぐ女性料理人、山崎美香さんの店。江戸の名残りを味わう鍋として、「ねぎま鍋コース」八千四百円がお奨め。
まずはお通し。ある日のそれは、「蟹と菊菜 えのきの酢の物」、「鯛のおぼろと山椒の実」、江戸風にこっくりと甘い「玉子焼き」、「海苔の和え物」、「海老のウニ焼き」。いずれも丁寧な仕事がなされた小気味のいい味わいで、胸がすっきりとし、酒が進むことこの上なし。
次に、おろしと細かく刻んだ生姜、葱を載せたマグロのづけ。蓮芋と豆腐の味噌椀、煎り酒を添えた鯛のお造りと続き、いよいよ鍋。
青磁の大皿に、美しきトロ、丸太に切った葱、わかめ、クレソン、芹、薄切りの独活が盛られる。鍋つゆは昆布鰹の出汁に酒と醤油で調味した、上品な味わい。鍋はどのテーブルも、店の方が付き切りで最後まで仕上げてくれる。
ふつふつと煮立ち始めたら、マグロと葱を入れる。つゆと両者を小鉢に取ってひと口。出汁をまとって、ほろりと崩れ行く背トロの酸味、脂の甘味が舌に広がって、顔が崩れるは必至。腹トロ側の上品で溶けるような脂もまた魅力。また、その逞しき味わいを引き締める、ひき割り黒胡椒のアクセントもいい。
マグロを食べ、その旨さに唸って、葱の香気でリフレッシュ。また葱は食べ進むうちに、マグロの脂をまとって、自体の甘味を増幅させる。順次投入されるクレソンの香り、芹の香り、わかめの香り。そして脂をまとう独活の香り。清涼で溌剌とした、様々な山の香りと、濃厚な海の滋養が鍋の中で抱き合う至福。恵みに、日本に生まれたことを感謝する瞬間がここにはある。
締めは、熱々ご飯に残った汁をかけ、ひき割り黒胡椒をはらりと振って、さっぶさぶ。一気呵成に掻き込めば、「あぁ、旨い」と叫んで、すぐさまおかわりしてしまう。
そして最後を締めくくるのは、上品な甘さもさることながら、皮のしなやかさに微笑む、きんつば。
味噌仕立ての「フグ鍋」一万五千七百五十円もお奨め。
山さき
新宿区神楽坂4-2 福屋ビル2F
tel.=03-3267-2310
営業時間=18:00〜20:00(L.O.)
定休日=日曜日・祝日
古窯
たっぷりの里芋と山形牛の旨みが溶け込んだ
山形名物「いも煮」
形県上山温泉の日本旅館「古窯」が営む、山形料理の店。同店では、家族や親戚、友人仲間一同などが川辺に集まり、里芋を中心に、肉や牛蒡などを煮込んで、大勢で楽しむ「いも煮会」で有名な山形名物「いも煮」がいただける。
メニューには、一人前九百三十円の単品料理のみ載っているが、四人前以上の注文なら鉄鍋に仕立ててくれる。
たっぷりの里芋と山形牛のバラ肉、山形産の葱、牛蒡、こんにゃくを、醤油、味醂、酒で味付けたスープで煮込む。
実に上品な味付けに、上質な牛脂の甘味が溶け込んで、思わずにやける旨さが広がる。芋は、柔らかすぎない、確かな歯ざわりを微妙に残した食感で、特有の粘りとともに口の中に滑り込む。芋自体の甘味を、さらりとまとった牛の旨みと出汁の味わいが膨らませ、幸せが募る。これこそ里芋の最高の食べ方ではないかと思うほど。ともに入る、牛蒡の香り、葱のおねばの甘味、玉こんにゃくの確かな食感もすばらしい。素朴な贅沢を享受。
冬もいいが、秋の新イモの時期もまた魅力。
古窯
中央区銀座7-6-11 ミクニビル2F
tel.=03-5537-5400
営業時間=11:30〜13:30(L.O.)、17:30〜21:30(L.O.)
※土 11:30〜13:30(L.O.)、17:00〜20:30(L.O.)
定休日=日曜日・祝日
藤半
脂の乗った鮭、まろやかな味噌味
思わず酒が進む「石狩鍋」
根室出身のご主人が営む、人気の北海道料理店。八角や北寄貝などの刺身類は鮮度よく、いずれも甘味に富み、茹でた毛ガニやカスベの唐揚げ、じゃが芋のバター煮など、どれを頼んでも間違いがないおいしさ。
「石狩鍋」一人前千八百九十円。味噌仕立ての鉄鍋に、鮭、白子、とうもろこし、えのき、椎茸、じゃが芋、青菜、マロニーが入る。なによりも脂の乗った鮭がおいしく、ほろりと口の中で崩れれば、味噌と入り混じった旨みが舌に載って微笑む。酒が進むこと、体が上気すること、この上なし。味噌味が濃くなく、まろやかで、箸が進む。イクラの醤油漬けが添えられるので、お好みで小鉢にとりわけた具材にかけて食べてもおいしい。鍋は一人前で十分な量があるので、酒の肴として頼むなら、二人で一人前がいいだろう。
締めは店の人が仕立ててくれる雑炊。具合がほどよく、満腹でもおかわりし、鍋底までさらってしまう。
そのほか、太巻きの中に、ウニ、イクラ、マグロのすき身(中落ち)、イカの刺身などが入った「藤半巻」二千百円、コク深い「アンコウの肝」九百二十四円〜などがお奨め。
藤半
品川区東大井5-14-19 中川ビル1F
tel.=03-3471-6888
営業時間=17:00〜23:00(L.O.)
※土・祝 17:00〜22:30(L.O.)
定休日=日曜日
新三浦 築地本店
百年変わらぬ博多の老舗の味
鶏の旨みが体中に染み渡る「水だき」
明治四十三年博多で創業以来、「水だき」一本やりで営む老舗。水だきコースは八千五百円〜。ある日の突き出しは、トコブシ煮、茹で海老、プチトマト、玉子豆腐、鶏の煮こごり。続いて、肉汁があふれ出る、鶏つくねの串焼き。三皿目は、肉が弾ける、鶏のモモ焼き、そしてしゃぶりつく楽しみがある鶏の唐揚げと続く。
この後が水だき。白濁した鶏スープがなみなみと入った銀色の鍋が運ばれ、辺りはたちまち胃袋をくすぐる香りに包まれる。まずは仲居さんが、塩を少量入れた蕎麦猪口に、スープを注ぐ。そこへ鴨頭葱の小口を散らしてひとすすり。とろりとコラーゲンが溶け込んだ鶏の豊かな滋味が、舌にゆっくり広がって、喉に落ち、体中に染み渡って、充足のため息をつく。濃厚でいながら、後味の切れがよく、何杯でもおかわりしたくなる、この鍋のクライマックスのひとつである。
次に骨付きの鶏肉。骨離れのいい肉を噛み込むと、歯が肉に包まれて、やさしい甘味が滲み出る。大分産カボスと薄口醤油による上等なポン酢につけても旨いが、まずは塩だけで食べて、シンプルな旨みを味わうことをお奨めする。
鶏肉の後は野菜と豆腐類。スープに絡んだ、えのき、椎茸、葱などいずれもいいが、スープを吸った白菜の甘味が、なんといっても魅力。
最後は、仲居さんが仕立ててくれる玉子雑炊。玉子でとじ、ポン酢ともみじおろしをかけて、取り分けてくれる。濃厚な鶏スープを吸った米のおいしいこと。もし許されるなら、雑炊前に、ご飯にスープをかけ、塩で調味したスープ茶漬けもいい。またポン酢をかけずに塩だけの雑炊もお奨め。
新三浦 築地本店
中央区築地1-8-1 新三浦ビル
tel.=03-3541-0811
営業時間=11:30〜14:30、17:00〜22:00
定休日=日曜日(祝日は要予約)
びんてじ
牛すじとマグロの中落ちの出汁で煮た種を
粉鰹と青海苔をかけて食べる、真正「静岡おでん」
静岡おでんの店。牛すじとマグロの中落ちで出汁を取った真っ黒なおでんつゆで煮た種を、粉鰹と青海苔をかけて食べる、真正静岡風。
注ぎ足し注ぎ足してきたというつゆは、牛すじによるコク深い滋味と、魚出汁の香りが見事に混ざり合い、長年の熟成による甘味もあって、癖になる味わい。色は濃いが塩気はやさしく、素材の味を持ち上げている。
その醍醐味を味わうなら、まずは「三日仕込み大根」二百四十二円を。甘味、旨み、辛味など、いろいろな味わいが複雑に溶け込んでいて、実に味わい深い。
次にお奨めが「牛すじ」二百九十四円。噛めばとろりと口の中に入ってきて、甘味を醸し出す。コラーゲンの旨みが汁と出会って幸せ増幅。「ゆで卵」百二十六円は、つゆの奥深さによって逞しく感じ、「黒豚・白もつ」二百十円は、弾むような食感につゆが滲む感覚がたまらない。静岡名物「手造り黒はんぺん」百五十八円は、魚の味わいがしっかり舌に載り、つゆとの相性もいい。
そのほか、「富士宮焼きそば」七百十四円などの郷土色に富む皿や、「砂肝の胡麻よごし」五百七十八円、「山芋のとろろグラタン」七百十四円などもお奨め。焼酎や日本酒の揃えも豊富。
びんてじ
台東区浅草橋1-31-4 大原第3ビル1F
tel.=03-3865-7220
営業時間=18:00〜23:00
(L.O. フード22:00・ドリンク22:30)
定休日=日曜日・祝日
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