味の見聞録
ハヤシライス(1)
長年愛され続ける
洋食の代表メニュー

「丸善」創業者が考えたとか、上野「精養軒」が発祥だとか、諸説あるハヤシライスは、一時カレーライスの勢いに押されて、衰退気味だったが、最近勢力復刻の兆しも見える。そんな街々のハヤシライス事情をご紹介。

オー・プロヴァンソー
素材のうまみを集結させた
フランス料理のエスプリが込められた一皿
 

 れっきとした正統フランス料理店。ここのメニューにハヤシライスがある。「ちょっと美味しいハヤシライス」は、二千七百円。昼は、旬の素材を使った繊細な味わいのオードブルとデザート、飲み物付きのコースで四千三百円(限定五食)。
 まず運ばれてきた瞬間に目を奪われる。丸い深皿には、向こうにご飯が盛られ、手前には大きな肉の塊が二つ横たわり、手前から中央にかけてソースがなみなみと注がれている。何よりもその艶が素晴らしい。茶、紫、深紅が溶け込んだ、惚れ惚れするような色合いで、色気をも漂わせて、スプーンを差し込むのをためらうほどだ。 そして目の前に置かれた瞬間に、顔を包む豊かな香り。甘酸っぱく、濃縮感のある香りが誘惑し、脳幹を揺さぶる。口に運べば、肉、フォン、野菜、赤ワインや酒類など、溶け合った様々なうまみが丸く、深く、とろりと口いっぱいに広がっていく。
 そして濃密なうまみはさらりと、引き潮のように消えていく。
 酸の切れ、複雑な香り、うまみの奥深さ、洗練と力強さの協調にうっとりとなる。牛ホホ肉はほろりと柔らかく、一度出したうまみを吸収し、噛む喜びも与えてくれる。素材を一度分解し、それぞれからうまみを引き出し、集結させるというフランス料理のエスプリが込められしハヤシライス。それは甘いご飯とすこぶる相性がよく、スプーン持つ手が止まらない。

オー・プロヴァンソー 
千代田区平河町1-3-9
tel.=03-3239-0818
営業時間=11:30〜14:00(L.O.)、17:30〜22:00(L.O.)
定休日=日曜日(祝日不定休)
 


ドンピエール
ご飯、ソース、肉の一体感が幸せを呼ぶ
上等なハヤシライス

 優れたフランス料理と洋食がいただける店として人気。「ハヤシライス」(昼:千六百八十円、夜:千九百九十五円)は、濃いこげ茶色に、深紅や紫が入った深みのある色合い。艶やかな色合いと豊かな香りに、目前に置かれただけで目が細くなる。
 ご飯とソースをからめ、一緒に口に運べば、とろりとなったソースの滑らかさが舌に優しく、その奥に濃密さを持ったうまみに支えられた甘みが広がり、酸味やほのかな苦味が顔を出し、ふわりと赤ワインの香りが立ち上る。上品でいて大胆。切れ味奥深い、上等なハヤシライスである。
 和牛を使った肉は、十二分な存在感があり、しっとりと歯が食い込む。肉のうまみを保ったままソースとなじみ、ご飯、ソース、肉の一体感が幸せを呼ぶ。薬味はラッキョウ、福神漬、コルニッションや小玉葱のピクルス。ご飯も甘く香り高く、この値段はお値打ち。

ドンピエール
中央区京橋2-3-4
tel.=03-3242-0141
営業時間=11:30〜14:00(L.O.)、17:30〜21:00(L.O.)
定休日=日曜日


レストラン七條
コラーゲンのうまみたっぷり
和牛テールのハヤシライス

 昼は洋食、夜はフランス料理と洋食の二本立てで楽しませてくれる人気店。昼夜ともに盛況だ。
 「和牛テールのハヤシライス」は千八百円(ハーフの千円もあり、料理をいただいた後の締めとしても最適だ)。ソースポットでサービスされる。
 濃いこげ茶色のソースが運ばれるや否や、煮詰めた赤ワインならではのかぐわしさが漂い、思わず顔がにやける。ご飯にかけ、口に運べば、穏やかな甘みを伴ったうまみと、豊かな、それでいて切れのいい酸味が広がって、ワインの香りが鼻を抜けていく。たっぷり使ったワインによる効果と玉葱などの甘みのコクがほどよく調和して、ご飯が無性に恋しくなる味わい。食べ終わって、その余韻だけで、ご飯が食べられる凛々しさと上品さがうまく折り合っている。
 テールは、コラーゲンのうまみたっぷりに、にゅるりと溶けるように、ほろりと崩れるように入っていて、ソースを盛り上げる。玉葱とマッシュルーム入り。ご飯も上等。福神漬の薬味添え。ランチはカップスープとミニサラダ付き。

レストラン七條
千代田区一ツ橋2-3-1 小学館ビルB1F
tel.=03-3230-4875
営業時間=11:30〜14:00(L.O.)、18:00〜20:00(L.O.)
※土曜日は昼のみの営業
定休日=日曜日・祝日


うまみ、甘酸っぱさ、苦味
バランスがよく、後味もきれいなソース
コムシェソワwith餃子工房

 独創性に富んだ洋食料理と、優れた点心がいただける店。
 ハヤシライスは、「アサイライス・フレンチバージョン」と名づけられ、ミニサラダ、カップスープ付きで千円。
 細長い、楕円の皿で登場する。皿には、生クリームを注いで模様を作った、黒に近いこげ茶色のサラサラソースがなみなみと張られている。中央に細長く盛られているのは、ロゼ色の焼き色を見せる牛肉。ご飯を盛り、赤ワインで炒めた玉葱を置き、ブランデーでフランベし、レアーに焼き上げた牛肉の薄切りを、その上からすべて包み込むようにした、ユニークな形。
 ソースは、まずほろ苦いカラメル香が漂い、うまみ、甘酸っぱさ、ほのかな苦味が押し寄せる。実にバランスがよく、後味もきれい。肉はそれだけでも美味しいが、ご飯を包み込んでも、ソースまみれにしてもいい。
 スープがたくさん入った餃子も美味。

コムシェソワwith餃子工房
大田区西蒲田7-65-9
tel.=03-5711-5151
営業時間=11:30〜14:30(L.O.)、17:00〜22:00(L.O.)
定休日=月曜日(祝日の場合は営業)


グリルエフ
ルーの香りが郷愁を呼ぶ
うまみが深い昔ながらの味わい

 創業昭和二十五年。駅前の路地で、蔦のからまる風情あるたたずまい。店内も古きよき昭和の匂いを残す。
 ハヤシライスはメニューに書かれていないが、誰でも注文することができる。千二百円。注文が入ると、牛肉と玉葱、マッシュルームを炒め、白ワインでフランベした後、代々注ぎ足されてきたというデミグラスソースをからめ、ソースポットに入れ、グリンピースをのせて完成。
 ソースポットからはみ出さんばかりの量で、黒々とした色合いのソースが肉によくからまり、汁気は少ない。ほろ苦く、甘みを抑え、うまみが深い、昔ながらの味わい。よく炒められたルーの香りが郷愁を呼ぶ。肉を食べて白ご飯を食べる、ちょっと辛子を肉につける、ご飯とよくよく混ぜるなど、様々な食べ方で楽しめるハヤシライスである。薬味はラッキョウ、福神漬、紅生姜みじん切り。

グリルエフ
品川区東五反田1-13-9
tel.=03-3441-2902
営業時間=11:00〜14:00(L.O.)、17:00〜20:40(L.O.)
定休日=日曜日・祝日


カフェ&キッチン林
さりげない中に貫かれた店主の心意気に
すがすがしさを覚える逸品

 様々な料理に店主のセンスと技がきらりと光るよき店として近隣の住人から愛されている、町の小さなレストラン。
 ハヤシライスは千三百円。艶やかなソースはさらりとして、上品に口の中でほどけていく。舌をとろりと包み込むのは溶け込んだゼラチン質か。その感触にうっとりとなる。酸味、甘み、そして穏やかで深いうまみのバランスよく、食べ進むにしたがってその滋味にはまっていく。炒められた牛ヒレ肉のうまみや玉葱の歯ざわりもよし。さりげない中に貫かれた店主の心意気に、すがすがしさを覚える逸品。

カフェ&キッチン林
大田区北千束3-28-6 橋本ビル1F
tel.=03-3727-6115
営業時間=11:30〜14:30(L.O.)、17:30〜21:30(L.O.)
定休日=月曜日(祝日の場合は翌日)


ダズンロージス
惚れ惚れするような艶
大人のカラメル香が広がるソース

 洋食の名店。「特製ハヤシライス」千五百七十五円(ランチのみ一日限定十食)を頼むと、和牛ヒレ肉を切り、玉葱、マッシュルームと炒め、ソースとあわせる。黒に近いソースは惚れ惚れするような艶があり、食べると大人のカラメル香が広がる。上品でやさしい甘み、穏やかな酸味、滑らかな口当たり、味の丸さと深み、いずれも上等。添えられた、蜂蜜とレモンを入れたトマトペーストを加えれば、懐かしい甘酸っぱさが加わり、思わず微笑む。

ダズンロージス
中央区京橋3-12-6 ニュー京橋ビル1F
tel.=03-3561-1264
営業時間=11:30〜14:00(L.O.)、17:30〜21:30(L.O.)
※土曜日 12:00〜14:30(L.O.)、17:00〜20:00(L.O.)
定休日=日曜日・祝日


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