熟成肉の楽しみ
独特のうまみ、香り、食感
熟成肉の魅力を引き出す一皿
牛肉を、一定の温度と湿度で管理し、二週間〜二カ月熟成させて、うまみを凝縮させ、香りを深め、独特の風味を醸し出す。そんな牛の熟成肉を楽しませる店が増えている。なかでも注目は、田園調布の肉屋「中勢以」の肉を使った店だ。今回は、そうした店を中心に、熟成肉の魅力をご紹介。
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パッソ・ア・パッソ
部位ごとの個性が際立つ
生食で熟成肉を提供
店を開いて七年。冬のジビエをはじめとして季節の恵みを楽しみに客が訪れる、都内でもトップクラスの人気を誇るリストランテ。
京都の「中勢以」から仕入れているという熟成肉は、部位ごとの個性が際立つ、生食で提供する。
ある日のそれは、二カ月熟成したというネクタイと呼ばれる前肩肉のタルタル。肉の味を素直に味わえるよう、肉だけをたたいて円筒形に成型し、上にケイパー、あさつきの微塵切り、砕いた粒胡椒をのせ、野萱草のソースとブラッドオレンジを添えてある。肉を食べれば、舌を誘惑するように色っぽく、香り深く、優しい。口に近づけ、香りが広がり、舌にのせて香り抜け、噛んで味わい溢れ、次第になくなっていくのが悲しくなる。それほどいとおしくなる味わい。野萱草ソースの青々とした香りもよく、放牧された牧場の中にいるような感もあって、清々しくなる。
また頼めば、内モモ、シンタマ(モモの下)、イチボ(臀部の先端近辺、ランプの下)などその日に入荷した、臀部〜後ろ足系のカルパッチョも。食べ比べ、風味や酸味の違いを堪能するのもいいだろう。
また熟成肉ではないが、深い香りとうまみに驚愕する、馬肉ハラミのステーキや、「リコッタを詰めた蓬のトルテッリ グリーンピースソース」などといった手打ちパスタ類も秀逸。コースは一コースのみで、八千四百円。
パッソ・ア・パッソ
江東区深川2-6-1 アワーズビル1F
tel.=03-5245-8645
営業時間=12:00〜14:00(ランチは日曜日のみ営業)、18:00〜21:30(L.O.)
定休日=水曜日(臨時休業あり)
ル・コック
肉を食らう喜びが体を貫く
素晴らしき料理
ご夫婦二人で切り盛りする小体なフランス料理店。名物の自家製スモークサーモンをはじめ、吟味した素材の持ち味を誠実な仕事で引き出した料理が心打つ。
熟成肉は、主菜で用意。ある日のそれは、「中勢以」のイチボ肉のステーキ。サラマンダー(上から火を入れて焼き色をつける調理器具)で焼き上げた肉は、一面美しいロゼ色で、周囲〇・数ミリだけに焼き色がついている。添えられるのは赤ワインのソースに赤ワインを染み込ませた塩。ガルニは、茸のソテー。
肉を切り、口に運んで噛めば、食べ手に挑んでくるような艶っぽい香りが広がり、濃厚なうまみが流れ出す。驚くのはそこからで、たとえ口の中で百回噛もうと、味も香りも消えることなく、うっとりとなる独特の香りと、穏やかで深みのある味が、いつまでも持続する。噛むごとに味がなくなっていくステーキとは雲泥の差。肉を噛む、肉を食らう喜びが体を貫く、素晴らしき料理。
コースは、昼三千百五十円〜、夜八千四百円〜。熟成肉は、事前にご確認を。
ル・コック
渋谷区恵比寿西2-7-2 ウインズビル1F
tel.=03-3770-1915
営業時間=18:00〜22:00(ランチは予約制)
定休日=火曜日
トラットリア・ブリッコラ
いつまでも噛んでいたい衝動に襲われる
噛むほどに滲み出る肉のうまみ
水準の高いイタリアンが少ない新宿にあって、信頼できる店の一つ。酒蔵のような地階の店は、連夜盛況。
熟成肉をこよなく愛するシェフにお願いすれば、熟成肉を中心としたコースを組むことも可能(熟成肉のコースはないので、要相談されたし)。出される熟成肉は「中勢以」による厳選された肉。
ある日のそれは、まず出されたのが「カメノコ(モモ下のシンタマの一部)」のカルパッチョ。赤身肉をシンプルに塩でいただけば、いささかねっとりとして艶っぽく、舌に絡みつくようなうまみが広がる。次がシェフの修業先、トレンティーノ=アルト・アディジェ州、テンノ湖の名物の塩漬け牛肉「カルネサラダ」にヒントを得たという料理。シキンボウ(モモの中心)を塩とハーブに漬け込んだ塊肉のカルパッチョ。塩気とハーブ類の香気に熟成肉の深い香りが加わり、充足感が津波のように押し寄せる。さらにそこへ、添えられた山羊のフレッシュチーズ「フォルマッジョ・ビアンコ・プーラ・カープラ」を合わせれば、肉の鉄分とチーズの酸味が、共鳴して至福なり。
次が炭火焼き。豚のモモとバラ肉。特にモモ肉が危険。豚の味が穏やかに濃縮され、どうだと言わんばかりに舌に挑んでくる。命がみなぎるのを感じさせる野生のたくましさで圧倒され、肉好きにはたまらない喜びである。またバラ肉の脂身の溶けも、するりと口の中でほどけて香りを放ち、実に素晴らしい。
次が牛。マルカワ(シンタマの一部)と尻尾肉。穏やかでいて濃厚、強い香りで迫ってくるマルカワも素晴らしく、うまみが色っぽく、舌にしなだれかかってくる。添えられたハーブをつけて食べるとうまい。一方尻尾肉は、噛めば噛むほどにうまみが滲み出て、いつまでも噛んでいたい衝動に襲われる。
最後が煮込み料理「スネ肉のグーラッシュ」。三カ月熟成した肉を赤ワインベースで煮込んだ料理。特有の深く、色っぽい熟成香がソースの複雑な芳香と混じり合い、陶然となるは必至。玉葱の甘みと肉自体の熟成されたことによる優しいうまみが合わさり、噛む喜びも加わって、肉の充実感が押し寄せる。さらに赤ワインと合わせれば申し分なし。幸せな時間が待っている。添えられた縮みホウレン草のポレンタの素朴な甘みもいい。
ワインも充実しているが、それぞれの料理に合わせて、お奨めのグラスワインで楽しむのもいいだろう。
トラットリア・ブリッコラ
新宿区新宿3-11-10 新宿311ビルB1F
tel.=03-5369-3530
営業時間=18:00〜翌3:00(2:00 L.O.)
日曜日・祝日 15:00〜23:30(22:30 L.O.)
※月曜日が祝日の場合、日曜日は15:00〜翌3:00(2:00 L.O.)
年中無休(年末年始除く)
リストランテ・アッラ・バーバ
肉好きなら
誰しも虜になる魔力あり
プラチナ通り裏手の閑静な路地にひっそりと佇む地階のリストランテ。モダンな内装に囲まれ、ゆるりと食事を楽しむことができる。
こちらでも使われるのは、「中勢以」の熟成肉と厳選豚。
パスタ料理では、「厳選豚とちりめんキャベツのラグー 熟成豚バラ肉添え」が素晴らしい。乾麺のような歯ごたえがあるタヤリン(細切り卵麺)に厳選豚とキャベツの優しいながら強い甘みに溢れたラグーが絡み、それだけで十分なところに、熟成肉の艶っぽい香りが交差して、食べるこちらの胸を突く。食べていて、胸がときめくような、そんな感覚を呼び起こすパスタだ。
ある日の主菜が、肉の盛り合わせ。四週間熟成と六週間熟成のカメノコのグリル、厳選豚肩ロースグリル、熟成豚肉のソーセージ、腕肉とバラ肉の煮込み。四週間熟成と六週間熟成の食べ比べは面白く、ことに後者の舌にぐいぐいとのってくるうまみは、非常に危険。肉好きなら誰しも虜になる魔力あり。豚肩ロースも脂身がうまく、甘く切れのいい味わいが広がっていく。煮込みは、肉自体に深い味わいがあって、煮込み料理でも噛む喜びを与えてくれる。そしてソーセージ。レフォールとポテトが添えられ、香りが素晴らしい。複雑でいて一筋縄ではいかない魅惑的な香りが見事に炸裂する。
昼二千六百二十五円〜、夜六千三百円〜。熟成肉の注文は、物腰の柔らかい給仕長とよく相談されるのがいいだろう。
リストランテ・アッラ・バーバ
港区白金台5-13-14 白金台The1000 B1F
tel.=03-3447-8934
営業時間=12:00〜14:00(L.O.)、18:00〜21:00(L.O.)
定休日=火曜日
人形町今半 本店
食べた後の深い充足感
「すき焼き」という料理の新たな可能性を発見
ご存じ、すき焼きの名店。一階の鉄板焼き、二階のすき焼き、しゃぶしゃぶのお座敷と分かれている。
熟成肉は、その日により、熟成期間、産地が異なるが、用意されている。ただし、事前に要確認。
ステーキでいただく熟成肉は、ねっとりと柔らかく、肉に色気があって、特有の熟成香が、肉を食べる喜びを加速させる。
しかし熟成肉の力がもっとも発揮されるのが、すき焼き。割り下の味まで変わるような錯覚を呼ぶ優しい味わいでいながら、香りが深く、食べ手の食欲に切り込んでくるようなダイナミズムがあって、食べた後に深い充足感がやってくる。
すでに完成されたはずの「すき焼き」という料理の可能性を感じさせる、新たな発見がそこにある。
極上すき焼き(ドライエージング)一万五百円。
人形町今半 本店
中央区日本橋人形町2-9-12
tel.=03-3666-7006
営業時間=11:00〜15:00、17:00〜22:00
※土曜日・日曜日・祝日 11:00〜22:00
年中無休
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