味の見聞録

軽井沢のフランス料理
フランス料理
無彩庵 池田
地元農家の野菜を軸にした
長野の食材への愛に満ちた料理

 西麻布より軽井沢に移転して一躍人気店となった「エルミタージュ・ドゥ・タムラ」の姉妹店としてスタートした「無彩庵」でシェフを八年務めた池田昌章氏が譲り受け、「無彩庵 池田」を独立開業した。

 池田シェフの作る料理は、地の食材への愛が溢れている。「山菜や川魚が好きで、軽井沢で働こうと思いました」と語るように、軽井沢や近隣の食材を使う。

 ある初夏の日の夜のコース(八千七百円)は以下の通り。

 アミューズは、エレガントな玉ねぎの甘みの中で微かにわさびが香り、舌を刺して食欲を刺激する「依田さんの玉ねぎと安曇野わさびのムース」。アクセントとしてのわさびの使い方が実に巧い。

 続いては「ワラビとアサリの出汁のジュレ寄せ カラスミ」。ほろ苦いワラビやアサリのうま味、サフラン風味のマヨネーズのコク、カラスミの塩気など、味の合わせが精妙で、見事に調和している。

 魚の前菜は、これもスペシャリテとなる「飯田・天竜鮎のパテ 鮎出汁と葛 キュウリとエストラゴンビネガー」。肝を練り込んだほろ苦い鮎のパテを、鮎の出汁で溶いた葛で包んでいる。半透明の葛皮から透けて見える茶色のパテが美しく、キュウリのソースにつければ溌剌たる香りが鼻に抜け、清流の中にいる気分になれる。

 肉の前菜は「伊那・宮田村仔猪のパテとブラックチェリー フォアグラと信州地鶏・紅しぐれのプレッセ ルバーブ 白バルサミコ バニラ」。練り肉のうま味に富んだ仔猪のパテと、香りの良いフォアグラに鶏胸肉を挟んでプレスした冷前菜である。白バルサミコを煮詰めてバニラを加えたソースが素晴らしい。

 次がスープ。「東御・工藤さんのキタアカリのポタージュ サマートリュフのグラスパウダー」は、シェフの才が発揮された料理である。ジャガイモ名人の手によるキタアカリを使ったスープは品が良く、丸い甘みが心を和ます。そこにコンソメで煮てから凍らして崩し、パウダー状にしたトリュフを添える。トリュフが溶け、ジャガイモの甘みにじっとりと色香が刺していく感覚がたまらない。

 続いての魚料理「野尻湖産天然ウナギ 依田さんの玉ねぎ 狼桃(トマト)のガスパチョ」も素晴らしい。二キロの天然ウナギを香ばしく焼き上げ、二日間寝かせてなじませ、微かに発酵の刺激が出たガスパチョソースを加えた皿である。ソースがウナギと綺麗になじんでいる。添えた玉ねぎのマリネが、ウナギの脂を一旦切る役目を果たしていて心憎い。

 肉料理は「伊那・宮田村のツキノワグマのアッシパルマンティエ 根曲がり竹 木の芽」である。フランスの国民食ともいえる牛肉とジャガイモのグラタンを、熊肉を使って作ったものである。下には赤ワイン風味のリゾットが敷かれ、熊肉の猛々しさと呼応させている。単純なようで計算が行き届いた皿であった。

 デザートは、生姜の刺激が絶妙に効いた「新生姜のブランマンジェ 黒糖エピスソース アップルマンゴーのソルベ」。そしてプティフールには、甘みの中から現れる塩味が余韻を作る「伊那・大鹿村の塩とショコラのサブレ」が出された。

 昼はプリフィクスで三千三百円から。夜は五千五百円から。地物と食材に敬意を払った料理を食べる喜びがここにはある。

長野県北佐久郡軽井沢町長倉1891-50
電話=0267(44)3930
営業時間=11時~13時半(LO)、17時~20時(LO)
定休日=火曜日(祝日の場合は営業)、冬期休業あり
※表示価格は税込、サービス料別
軽井沢のフランス料理
フランス料理
E.Bu.Ri.Ko
キノコと山野草
天然素材の見事な組み合わせ

 キノコ料理を中心としたフランス料理を供するレストラン。店名の「エブリコ」もキノコの名前。オーナーシェフは、キノコ使いの名人、恵比寿のフランス料理店「マッシュルーム」の山岡昌治シェフに師事した内堀篤氏である。

 ある日のコース(七千八百円)は以下の通り。

 アミューズは「ウルイで巻いて焼いたアナゴ イタドリのピュレ 山葡萄の新芽添え」。苦味、甘み、食感の違いなどが次々と口の中に現れて、食欲を刺激する。

 前菜は「根曲り竹の皮で燻製にした鶏胸肉 山菜のシオデとタチシオデ添え」。砂肝にはコシアブラとそのソース。二種類のシオデの香りや食感の違い、抹茶に似た香りを放つコシアブラソースなど、都会にいては感じられない山々の恵みが身体を浄化してくれる。

 続いてがスペシャリテのキノコ料理である「各種天然キノコのソテー」。なぜかニンニクの香りがするタモギタケ、セップタケのような香りと味がするマッシュルームのポルトヴェーラ、その歯ごたえとうま味に驚くエノキタケ、淡い味わいながら香り高いハタケシメジや舞茸など。いかにそれぞれの茸が持つ香りや食感を活かすかを考え抜いた、特殊な炒め方をしているのだという。添えられた、キュウリの香りがするイワガラミの葉も素敵。

 そしてこれもスペシャリテの一つである「アカヤマドリのスープ」。一口飲んだ瞬間唸って動けなくなるほどうま味が底深い。アカヤマドリという茸を一年冷凍して作ったというスープは「夏に飲むと濃すぎてしまうんです」とシェフが語るほど、めくるめくうま味があって圧倒する。他に例がないほどの滋養なのだろう。

 魚料理は「黒鯛のポワレ タマゴタケのソースと山菜のソース」。もったりとしたうま味を持つソースと山菜の香りが黒鯛と調和する逸品。

 肉料理は「豚のロティとソテー」である。豚肉は、よく動き回った証に肉がきめこまやかで、しっかりとした脂が甘く香る。その滋味を、山菜のミヤマイラクサ、山ウド、トガリアミガサタケなどが盛り上げる。

 最後は「杏子のピュレ デンマークの薬草酒と杏子のブランマンジェ トンカ豆のムース 蜂蜜のジュレ 白樺樹液の泡 オレンジとイチゴのソルベ チュイル 野草の花の砂糖がけ」と、これまた野の香りに満ちた素敵なデザートである。

 昼は二千四百円。夜は五千四百円から。こうした料理を木々に囲まれながら食べられるのは、軽井沢ならではの贅沢である。

長野県北佐久郡軽井沢町軽井沢1157-6 
電話=0267(42)3033
営業時間=11時半~13時半(LO)、17時半~19時半(LO)  
定休日=水曜日
※表示価格は税・サービス料別
割烹のお昼ご飯
日本料理
新宿・京懐石 柿傳
静謐な空間で懐石をいただく
大人の「心の道草」

 本格的なお茶事の懐石教室として江戸後期に始まり、以来、茶の湯文化と本格茶懐石を今に伝える「柿傳」。「新宿に大人の道草の場所を」という川端康成の言葉をきっかけに、新宿に開業し四十年余になる。

 ビルの六~九階の店舗の中、八階はテーブル席の客席があり、昼は四千円から料理を楽しむことができる。新宿の雑多な喧騒から遮断された静謐な空間で、座っただけで背筋が伸び、心が穏やかになっていく。

 なにより心配りが利いた半東さんのサービスが素晴らしく、どなたをお連れしても、清々しい印象を持たれるだろう。

 初夏の「雪コース」一万円をご紹介。

「先付」は、細かく切ったオクラとクコの実を散らした、大徳寺麩 ホタテ、ズイキの胡麻和え。それぞれの質朴な味わいに、懐石の心が沁みている。そのしみじみとしたおいしさにより、これから料理をいただくありがたみが湧き上がってくる。

「凌ぎ」は、干しコノコの細切りをのせた飯蒸し。椀の蓋を開けた瞬間、干しコノコの香りが立ち上がって、目が細くなる。一晩水に漬けたというもち米は、優しい甘みを忍ばせて、舌に丸い。

「温肴」は、長芋、人参、サヤエンドウ、かも丸(がん)(鴨の肉団子)に湯葉。だしの味わいを抱きしめながら、均一に滑らかに火が通った長芋、人参やサヤエンドウの香り、鉄分のたくましい滋味がこぼれるかも丸、湯葉の淡い淡い甘みなど、それぞれの持ち味が生かされていて素晴らしい。

「向付」は、 アオリイカと鯛、カンパチのお造り。ねっとりと甘いアオリイカ、質の高さを感じさせる鯛の香り、カンパチの品のいい脂を楽しむ。

 木の板にのせられた「八寸」は、 茹で海老、生姜を添えたメカブの酢の物、サツマイモのレモン煮、トコブシ、小メロン昆布〆。質素ながら、それぞれに意味のある味付けがなされ、色合い、味わい、食感が異なる五品を、じっくりと順に味わっていく喜びがある。

「煮物椀」は、鱧(はも)の葛叩きと玉子豆腐、つる菜の椀である。一口目は淡味なれど、次第に最後に向かって頂点のうま味を目指すつゆの素晴らしさ。鱧と葛の一体感。玉子豆腐の滑らかさ。つる菜の香り。正統煮物椀としての洗練した美しさがある。

「焼き物」 は、蓼酢(たでず)を添えた、鮎の塩焼きが出された。添え物は、 玉子カステラと獅子唐芥子にはじかみ。見事に香ばしく焼かれ、頭から骨ごと食べれば、鮎の命が口の中で爆ぜる。

「酢の物」は、 蟹、糸瓜、水菜、エリンギの辛子浸し。同寸に切って和えられた、仕事の光る和え物で、しっかり蟹の甘みが伝わってくる。

「食事」は、 生姜ご飯に青海苔と、赤だしのアサリ汁、香の物である。質朴な生姜ご飯に青海苔というのがいい。ご馳走をいただいた後に贅沢な食材を使った妙な色ご飯では、口も胃袋も疲れるからである。赤だしも香り高く、香の物も上等。

 食後をすっきりとした気分で迎え、「吉野スイセン」と銘打った冷たい葛きりをいただき、箸を置く。そして最後に運ばれてくる抹茶を静かに飲み、落ち着いた心を感じながら「ごちそうさまでした」と手を合わす。

 日々の忙しさから解放し、本来の自分の姿を取り戻す。現代人にとって最も必要な「心の道草」がここにはある。

東京都新宿区新宿3-37-11 安与ビル6~9階 
電話=03(3352)5121
営業時間=11時~14時LO(土日祝15時LO)、17時~20時LO(茶室19時半LO)  
年中無休(年末年始・夏期旧盆除く)
※税・サービス料別途
割烹のお昼ご飯
日本料理
乃木坂しん
本来の日本料理のあり方を貫く
注目の店で昼の贅沢を味わう

 昨年六月の開業以来、誠実な仕事が評判を呼び、着実にファンを増やしている注目の店。最近は、やたら高級素材を使い、人気を得ている割烹が増えているように思うが、「乃木坂しん」はそうした店とは一線を画す。

 旬を見つめ、野菜料理を大切にし、本来の日本料理のあり方を貫く。店主・料理長の石田伸二氏と、以前同じ店で働いていた、支配人兼ソムリエの飛田泰秀氏との絶妙のコンビネーションで、他の日本料理店とは異なる楽しみを与えてくれる。

 昼のコースは七千円から。初夏の料理は、白アスパラに、ミニ青梗菜と毛蟹のほぐし身をのせ、黄身酢をかけた「先付」から始まる。白アスパラガスのミネラル感、青梗菜のみずみずしさ、毛蟹の優しい風味がバランスよく抱き合い、黄身酢の丸いうま味でまとめられている。夏の到来を感じさせるおいしさである。

「煮物椀」は、椀種がうずら真薯餅包み、椀づまがジャガイモ、刻み茗荷、ミニアスパラである。一口飲めば、淡さの中に品格を感じる丸い味わいがすっと舌に流れる。また椀種が、最近ではあまり見なくなったうずら丸というのがいい。うずらの鉄分が品格あるつゆに溶けていく味わいが見事。

「お造り」は、カツオとアオリイカ。炙った藁火の香りが香ばしい、きめ細やかな身質のカツオ。隠し包丁が入れられた、ねっとりと甘いアオリイカは塩でいただく。共に、すこぶる上等。

「焼き物」は、イサキが出される。新玉葱の炭火焼きと卵の寄せ物、人参添え。はらりと崩れゆくイサキが甘い。

 続いては「アイナメ揚げ出し」。万願寺唐辛子と茄子、エリンギ、大根おろし添え。アイナメ自体のうま味、生命力を感じさせる一品で、食べればすっと背筋が伸びるような、誠実な味わいがある。

「食事」は、タコご飯に、店主の故郷徳島より、香り高い御前味噌の味噌汁と香の物。タコご飯は、炊いた干しダコとその煮汁でご飯を炊き、蒸らす際に生のタコを入れたものである。栗のような甘いタコの香りに満ち満ちていて、ほのぼのとしたおいしさが忍び寄る。

「デザート」は、ココナッツや和三盆を使ったゼリーや寒天を入れたフルーツポンチに、ライムとレモンのソルベ。

 カウンター七席。個室もいくつかあるが、ぜひカウンター席で石田・飛田両氏と会話を交わしながら、じっくりと昼の贅沢を味わいたい。

東京都港区赤坂8-11-19 エクレール乃木坂1階 
電話=03(6721)0086
営業時間=12時~13時半(LO)、18時~21時半(LO )  
不定休
※税・サービス料別途
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