味の見聞録

とんかつ最新事情
とんかつ
のもと家
とんかつを食べる醍醐味を知る
六白黒豚の特選ロースカツ

 ご主人は浅草「豚珍館」で、安くとも質の高いとんかつを出されていたが、都心のお客の顔が見える店で勝負をしたいとの想いで、港区芝公園に移転された。そんなご主人のとんかつに対する真摯な想いが響いたのだろう、開店後しばらくしてサラリーマンたちが押し寄せる店となった。

 実は、この一帯はとんかつ激戦区であり、人気店が何軒かあるのだが、その中で最もおすすめしたいのが、この店なのである。

 使うのは、四本の足先・鼻先・尾の先の計六カ所が白い、鹿児島の六白黒豚(ろっぱくくろぶた)。

 この豚のカツを楽しむなら、まずは「特選ロースかつ定食」(百二十グラム:千七百五十円、百六十グラム:二千百円)をおすすめする。「ロースかつ」よりも肉がきめ細かくて味が濃く、とんかつを食べる醍醐味を十二分に伝えてくれる。

「最近は豚と会話できるようになりました」というご主人は、同じ六白黒豚でも日々違う個体差を見極め、最大限に肉を活かすように揚げる。肉は肉汁に富み、脂はするりと溶けて甘く香る。サクサクと痛快に弾ける中粗の衣も香りよく、肉とのバランスもいい。

 キャベツはみずみずしく、柚子大根の新香、ご飯、豚汁のできも素晴らしい。

 とんかつに合わせる調味料は、茎わさび、とんかつ醤油、ソース、自分で摺るゴマと、サービス満点。どれもそれぞれに楽しめるが、このとんかつを一番おいしく食べるには、やはり塩がいいだろう。

 昼の「ロースかつ定食」(千百円)も実に質が高く、都内でこの値段で食べられるとんかつの中では群を抜いており、いいものをできる限り安く出そうという、ご主人のとんかつへの愛を感じる。

東京都港区芝公園2-3-7 玉川ビル2階 
電話=03(6809)1529
営業時間=11時半~14時(LO)、17時半~20時(LO)  
定休日=日曜日・祝日
※土曜は昼のみの営業
とんかつ最新事情
とんかつ
とんかつひなた
珍しい部位のカツも楽しめる
新たなとんかつの名店誕生

 高田馬場に、今年一月に開店したばかりのとんかつ屋である。

 最初に訪れた時、聞いてみた。「なぜ高田馬場に店を開いたのですか?」 すると店主いわく「『とん太』と『成蔵』という名店があるこの地でやってみたかったんです」。

「上ロースかつ定食」(昼:千六百二十円、夜:千九百四十四円)を一口食べて目を丸くした。なんとも肉がきめ細かい。前歯が肉にゆっくりめり込むと、甘く香り、肉汁がこぼれ出る。柔らかすぎなく猛々しい肉を噛む喜びがありながら、どこか品も漂う豚肉である。ぴったりと肉に密着した細かい衣も香ばしく、この肉と調和している。油切れもよく、食後感もいい。

 ソースは、酸味が程よいさらりとしたウスターソース系と、甘みのある濃厚なソースの二種類が用意されているが、こうしたカツに出会うと、断然塩である。塩は二種類、うま味の強い塩と、やや淡く粒子が細い塩が用意されている。

「上リブロースかつ定食」(二千七百円)もおすすめ。リブロースは、背脂だけでなく、肉の中にも一層脂が入っている。脂と肉は火の通り方が違うため、ロースより揚げることが難しいと聞く。より突っ込んで揚げながら、衣を剥がさない見極めが必要である。それをご主人は見事に揚げ切っていた。食べれば肉のうま味と脂の甘い香りが交差して、そこにパン粉の香ばしさや食感が加わる。豚肉の良さを活かし切ったとんかつは、何もかけずともそのままで十二分に幸せになれる。

 キャベツは甘み十分、白菜・蕪・胡瓜の新香も上等。味噌汁ではなく、チャーシューのスープが付く。

 さらにこの店では、ランプ(腿の柔らかい部分)、シキンボウ(内腿の芯の肉)、トントロ(頬から首の部位)のカツが楽しめるのである。

 肉汁をしっとり含んだランプは甘く香り、しっかりと揚げたトントロは、衣の濃い香りと、薄い肉に刺し込んだ脂の甘い香りが交差して、なんともうまい。今後は、イチボなども揚げていく予定だという。

 この肉の各部位を食べ比べ、最後にミニソースかつ丼で終えるコースもあり、とんかつ好きならぜひ挑戦してもらいたい。

東京都新宿区高田馬場2-13-9 鈴木ビル1階
電話=03(6380)2424
営業時間=11時~20時半(LO)
定休日=日曜日
とんかつ最新事情
とんかつ
あき山
気さくなご夫婦が営まれる
下町の人情味溢れるとんかつ屋

 いかにも下町らしい、気さくで話し好きの女将さんとご主人という年配のご夫婦二人で営まれるとんかつ屋である。

 訪れた時にいらっしゃった二組のお客は、どちらも初めての来店のようだったが、最後は女将さんと楽しく世間話をし、「また来ます」と言って帰られた。こうした人情味溢れる店が少なくなった東京で、希少な店である。

「ロースかつ膳」(千九百四十四円)のカツは、衣をやや焦げ茶色に仕上げた高温系の揚げ方だが、細かい衣がぴったりと肉に寄り添っている。水っぽくない質のいい肉を使っていることと、揚げ切るタイミングの見極めが優れていることの証である。衣はカリリと香ばしく、一切れを歯で半分に千切っても、まったくはがれるそぶりすら見せない。見事である。

 噛めば甘い香りが広がり、じっとりと肉汁が滲み出す。脂身部分の溶け具合も軽く、緻密な肉質との対比が楽しい。

 ソースはかなり甘めであるが、芥子とともにつければ肉に合う。青海苔と葱の味噌汁は、青海苔の香りと甘い麦味噌の香りが抱き合って、とんかつの間の手としては最高である。

 通常、かつ膳に添えられる新香は胡瓜と大根だが、とんかつの前に「上新香」を単品で頼み、肴にして一杯やっていると、「こちらに変えました」と、女将さんがフルーツトマトのマリネを小鉢に盛って出してくれた。こうした気働きの細やかさにも、下町ならではの人情味が滲んでいて、またすぐさま訪れたくなるのである。

東京都台東区浅草2-12-6 
電話=03(3847)8441
営業時間=11時半~15時、17時半~20時半 
定休日=月曜日(祝日の場合は翌火曜日)
札幌の美味(3)
フランス料理
ラ・サンテ
ホワイトアスパラガスと羊肉
シェフのスペシャリテを堪能

 住宅街の一軒家で営まれる、フランス料理店。温かい雰囲気が漂う店内は、実に心地よい。

 当店のスペシャリテでもある、ホワイトアスパラガスと仔羊の料理を味わうには、六月がいい。ある六月初めのコースは以下の通り。

 アミューズは、白い小さなグラスに、蕪の白いムースと、土に見立てた黒千石大豆(くろせんごくだいず)と十勝マッシュルームの粉が敷き詰められ、そこからホワイトアスパラガスの穂先が顔を出している。ホワイトアスパラガスを土の中から掘り出す姿をイメージした料理で、これから続く料理への期待を高める。

 二つ目のアミューズは、安平(あびら)町の八木響子さんが作ったというホワイトアスパラガスのスープ。ほのかな甘みだけでなく、ミネラルの豊かさを感じる苦味も滲んで美味しい。

 続いての「時鮭(ときしらず)のスモーク」は、分厚い切り身のまま燻製にされており、脂が全体にしっとりと回った、きめ細やかな身が、舌の上ではらりと崩れていく。

 そして、スペシャリテ「北海道産ホワイトアスパラガスの塩竈焼き」の登場である。

 クマザサと塩で包まれ、二百三十度で蒸し焼きにされたホワイトアスパラガスは、命の気配をたっぷりと残していた。「生きているよ」。噛み締める度に、アスパラが囁く。シャクシャクと穂先を噛めば、ほのかに甘い香りが漂って、温かい気分となる。コリッコリッと根元を噛めば、大地のほろ苦い養分が口いっぱいに満たされて「ありがとう」と思わず呟くのである。そんな穂先から根元までの、それぞれの味や食感の違いが明確にわかる料理なのだ。

「フランスやドイツのホワイトアスパラガスは、バターで炒めるなど強い調理が向いている。でも、八木さんが作るホワイトアスパラガスは、この調理法が一番です」。髙橋毅シェフはそう言って、優しい目になった。

 シャクシャク、コリッコリッと、命が弾け飛び、我々が生かされている喜びがせり上がる、素晴らしい一皿を是非食べに行かれたい。

 アスパラガスのあとは、これも名物である、特製の炉で焼かれた肉類となる。

 最初は、白樺の木で焼かれた仔羊のスペアリブと背肉にもも肉。続いて桜の木で焼かれた五歳のマトンの肉。最後は豚肉のカツである。

 仔羊は、柔らかな味わいの中に鉄分の猛々しさを感じるもも肉も素晴らしいが、スペアリブの骨ぎわ、コラーゲンの甘みが、なんともたまらない。いけないものを食べてしまったような、幼くも優しい滋味が滲み出る。

 グリーンアスパラガスや紫芋とともに焼かれた、タイムの香り漂うマトンは、まさしく「肉を食らっている」という感動が体を貫く、肉々しい味がある。

 豚肉も身質がきめ細かく、特に脂の部分が締まって、歯が食い込んで甘く溶けていく感触に、うっとりとなるは必至。

 デセールは「グリーンアスパラガスのソルベ」。アスパラガスのアスパラガスたる香りが広がる中で、優しい甘みが溶けていく。続いての「塩プリンとイチゴ、練乳のアイス」には、ほのぼのとした美味しさがあり、まさに髙橋シェフの誠実な仕事が現れている。

北海道札幌市中央区北三条西27丁目2-16
電話=011(612)9003
営業時間=12時~15時(13時半LO)、18時~22時半(21時LO)  
定休日=水曜日、第2・第3木曜日
※要予約。ランチは土曜・日曜・祝日のみの営業
札幌の美味(3)
居酒屋
こなから
季節感と個性に富む料理と酒
食いしん坊のための居酒屋

 市内に数多く居酒屋はあるが、ここが一番だろう。いや、ほかにはない。

 ご主人の小割茂樹さんは、毎朝石狩をはじめ遠くの港まで足を運び、魚を仕入れ料理する。魚好きが頼みたくなる料理がずらりと並び、ある日数えてみたら、四十八種類もあった。どれも季節感と個性に富んでいて、酒飲みと食いしん坊のツボをチクチクと刺激する。

 さらに、酒の揃えもいい。燗のつけ具合もいい。とっても危険な店なのである。だから、「もう札幌の夜は、こなから以外に行けなくなった」という人を、私はたくさん知っている。

「いいものがあるとつい買っちゃう」と、小割さんが遠くまで買い付けに行った魚の「刺身の盛り合わせ」に「アスパラガスとウドの白和え」、「白蕪とキュウリの浅漬け」をもらって、スタートする。

 酒は地元の「二世古」を二種類冷やでいただき、あとは「宗玄」、「るみ子の酒」、「而今(じこん)」を燗にしてもらって食べ進むのも楽しいだろう。

 磯香が口の中でのたうち回る「鮑の岩海苔あんかけ」、焼いた香りが甘い「ホワイトアスパラガスの焼き浸し」、身が緻密で優しく、脂がじっとり回った「時鮭焼き漬け」、胃袋を掴むようなこっくりとしたうま味が溶け込んだ「メヌケの味噌汁」。どれも酒が進んで困っちゃう肴である。

「海老マヨ」は衣にコーンの香りがして、マヨネーズの塩梅がなんともいい。さらに、堂々たる大きさの身がしっとりとして、噛み込めば品のある脂が広がる「ホッケの炭火焼き」で、また笑ってしまうのである。

 名物「イチジクレーズンバター」では、「ウィスキーをください!」と叫び、「行者菜となめこと卵の辛味炒め」で、なめこの役割を褒め称える。

 ほかにも、コラーゲンのうま味と海苔の香りが抱き合う「ゴッコ(ホテイウオ)と岩海苔の小鍋仕立て」。品のいい脂が舌の上で溶ける「ニシンの焼き〆造りの刺身」。大きく分厚いカレイの肉がホロリと甘く崩れる「ババガレイの煮付け」。不思議に三者の味わいが共鳴して思わず笑い出す、名物「牡蠣と柿と牛スジの朴葉味噌焼き」などの冬の料理も捨てがたい。

 店名の「こなから」=「小半ら」は一升の半分の半分、つまり二合半くらいがほどよい酔い具合と言われているのに、まったくもって酒が止まりません。
そして散々食べたあとには、「蟹炒飯」、「ストロングドライカレー」、鯖の新鮮な身のうま味とソースのバランスが精妙な、名物「鯖サンド」が待っている。

 どうです? 困った店でしょう!

北海道札幌市中央区北二条西3 イシガキビル2階 
電話=011(281)1250
営業時間=17時~22時半(土曜 17時~22時)
定休日=日曜日・祝日(その他不定休)
バックナンバー