味の見聞録

カテゴリ:鮨
札幌の美味(2)
鮨ノ蔵
市場で培った目利き
他店にない独自の仕事が光る

 ビルの地階でひっそりと営む、カウンター六席の小さな店である。

 ご主人の井川大(ひろし)さんは、十八歳から二十五歳まですし職人として修業後、珍しいことに、市場で働いていた経験を持つ。その仕事で培った目利きの経験による、いかに魚の味わいを活かすかを考え抜いた、他にはない仕事が面白い。

 例えば、サメガレイの昆布〆を、鮭節のだし醤油で出す。サメガレイは、その名の通りサメ皮のような皮質のカレイで、普通のカレイと比べるとやや野暮ったい香りがするが、脂が乗って、うま味充分である。

 あるいは、驚くほど吸盤がおいしい水ダコの刺身。また、二週間熟成させた根ホッケの刺身、二週間熟成させたアブラコ(アイナメ)の刺身。いずれもうま味が深い。

 そして握り。酢飯はやや硬めに炊いた道産米である。

 ユニークなのは、通称「ウォーターベッド」と呼ぶ、しゃぶしゃぶ。熱湯にくぐらすとうま味が逃げるため、バットに湯を入れてラップを敷き、八十~九十度になったら静かに刺身を置く。皮と皮下がうまいが、焼くとくどくなり繊細さが失われる赤魚などを、この調理法で提供する。

 例えば、キンキ。キンキの脂の雑な香りだけが抜け、実にすっきりと脂の甘みが味わえる。

 熟成させ、少し風で乾かしたマグロの赤身と中トロ。これまた身がきめ細やかで、味が深い。

 四十八度で低温調理し、生と蒸しの中間に仕立てたアワビの握りは、噛むと生のアワビの香りがするのに、加熱されたアワビのねっちりとした甘みもある。

 二時間強い風を当てて風乾し、余分な水分を飛ばしてうま味を凝縮させた風乾ホタテと、生のホタテの握りの食べ比べ。風乾されたホタテは味が濃く、生は香り高い。

 同じく風乾させたシマアジの握り。そしてムラサキウニと馬糞ウニの合わせ握り。ムラサキウニは優しい甘みで酢飯に寄り添い、馬糞ウニは濃い甘みで余韻を残す。

 また、二週間寝かせた神経絞めのトラフグは香りが高く、四十八度で二時間火入れしたアワビは滋味がじっとりと滲み出る。皮を剥いた水ダコをグリルして白醤油と昆布だしに漬けたもの、フグだしで湯煮しすることでそっとうま味を膨らませたキンキ、三日間脱水させたマツカワガレイなど、主人独特の魚の扱いがつづく。

 生では脂が野暮ったく、多少くどいニシンは、タタキにして貝割れとミョウガに合わせた。すると野暮ったいというより、ねっとりとした脂の甘みが表れて、唸らせるのである。

 イワシは軽く〆て五日間寝かせ、色が変わった表面を削いで握る。切り身ではなく小間切れにすることによって、肉感を出す。

 軽く昆布〆したボタンエビは、ラップで巻いて一日風乾する。昆布の味は感じないほど微かだが、ボタンエビの余分な水分が抜けて、純な甘みだけが引き出され、ねっとり甘い。
コースは、おまかせ七千円のみ。

 日本酒の揃えも良く、北海道を中心に希少な酒も用意されている。

 それらを飲んで食べて、お勘定は一万円ぐらい。実にお値打ちである。

北海道中央区南2西4 乙井ビル地下1階 
電話=080(3237)5430
営業時間=18時~21時(LO)  
定休日=日曜日
話題の新店 寿司編
鮨 なかがわ
独自の工夫が施された
つまみと握りが魅力

 錦糸町駅から徒歩五分、閑静な住宅街にぽつねんとある。店内はカウンター六席のみで、要予約。

 まずは、稚鮎と肝を裏ごししたペースト、イサキと石垣貝の刺身、甲殻類の旨味が優しく抽出された茶碗蒸しからスタート。

 最初の握りは、エビをおぼろにする手前の握り。しっとりとした食感でエビの甘みに富み、それが酢飯の酸味で生き生きと輝く。次は、唐津と北海道のウニの食べ比べ。続いて、干さずに雲州味噌で十一ヶ月漬込んだというカラスミ。味噌の旨味と重なったカラスミの旨味が、強烈に酒を呼ぶ。

 炙りカツオ、甘みが出てきた旬の尾長鯛の刺身と続き、シマアジの握りが出される。

 脂がほどよくなめらかな金目鯛の刺身の後は、イワシの肝和え。これが素晴らしかった。肝を一旦凍らせ、細切りにしたイワシと混ぜながら溶かし、精妙に切った玉ねぎと合わせたもので、雑味のない肝の甘みとイワシの脂の甘みが溶け合い、玉ねぎのアクセントも利いて、上等の料理である。

 淡路のしめ鯖のわさび巻き、舞阪のシンコ。そしてナカズミの握り。その穏やかな旨味に驚くは必至。

 見事な椎茸甘煮の後、アジのたたき生姜のせ、ボストンの本鮪の赤身、塩釜定置網の中トロ、佐渡の定置網のトロの握りと続く。 

 旨味が実に綺麗なあん肝のつまみを挟んで、甘みがある分少し強めにわさびを利かせたアオリイカの握り、シマエビの握り。

 さらに、雑味なくほどよい辛さに仕上げて卵の風味を生かした明太子のつまみが出され、穴子の白煮の握り、旨味が濃い穴子のすり身入り玉子焼きで締める。

 価格は、お酒を飲んで一万五千円ほどで、都内の優秀な寿司屋としては安いほうだろう。なにより、つまみや握りに独自の工夫がなされている点が、この店の魅力である。

東京都墨田区太平1-22-1 ソラナ錦糸町1階 
電話=03(6284)1988
営業時間=17時半~22時半 
定休日=不定休
話題の新店 寿司編
鮨あらい
やや大きめの握りで
「旨い寿司を食べた」と実感する

 四谷「すし匠」にて修業した、若いご主人が昨年十月に開いた店。早くも人気で、予約も先々まで埋まっていると聞く。カウンター七席に、個室もある。

「すし匠」出身ながら、つまみと握りが交互に出るスタイルではなく、つまみが出てから握りが出される。 

 酢飯の酢がたったやや大きめの握り。また、赤酢と米酢の両方を用意するのではなく、米酢二種と赤酢をブレンドした、ほんのりと桃色がさした酢飯で握られ、他の「すし匠」系店とは一線を画す。

 訪れた夏のある日は、まず「お疲れ様でした」の声とともに、ビールと枝豆が登場。

 つまみは、アサリに、昆布の味わいとエビの甘みが協調する、葱醤油を添えたカツオお造り。蒸しアワビ二枚、北海道噴火湾の毛蟹の酢飯なしの海苔手巻きと続き、さらに、脂が乗ったノドグロ酒蒸し、づけ、あん肝、間引きスイカの漬物が出される。

 ここから握り。まずはマコガレイ、脂が上品なキンメダイ、中トロ、赤身。この赤身と酢飯の相性がすこぶるいい。

 続いて、鯛、酢飯の大きさとバランスがいい大トロ、甘みに富むミル貝、カボスとワサビ塩で食べる平貝、車エビ、煮蛤、軍艦のウニ。

 そして、塩スダチで食べるスミイカ。こうした淡味の種の時に、酢飯のふくよかな味を強く感じる。

 同じく酢飯とよく合う、青葱をのせたアジ、コハダ、穴子、玉子と出され、蛤潮汁で締める。

 山形「喜久酔」はじめ、日本酒の揃えもいい。酒をしっかり飲んで二万八千円ほど。

 ご主人は若いながら、「すし匠」中澤圭二氏の薫陶を受けた、客への敬意を感じられる素晴らしい接客が気持ちいい。

東京都中央区銀座8-10-2 ルアンビル地下1階 
電話=03(6264)5855
営業時間=11時半~13時半、17時~22時(LO) 
定休日=水曜日
話題の新店 寿司編
すし 岩澤
食事、酒、接客
すべてが秀逸な心地よい空間

 東急不動前駅から徒歩五分、閑静な住宅街の中に店を構える。赤坂の人気店「すし匠齋藤」などで修業を積んだご主人が、今年三月に開店。白酢と二種の赤酢による三つの酢飯を使い分け、つまみと握りを混ぜて供すスタイルである。カウンター八席。
七月のある日は、白酢による白ギス握りからスタート。酢と塩を抑えた酢飯で、ご飯の美味しさが際立っている。次に、 蓴菜(じゅんさい)出し割酢、マコガレイお造りと、その肝による肝巻き。続いて、富山岩牡蠣。焼いた万願寺唐辛子。珍しい、イワシ海苔巻きが出された後、スダチと塩が振られた、歯切れのいいスミイカ握りが出される。

 シジミの茶碗蒸しで喉と胃袋を温めた後は、毛蟹ご飯を手巻きで。蟹の香りを抱き込んだご飯の美味しいこと。

 続いて、金目のしゃぶしゃぶ。煮切りを引いて振り柚子をしたカスゴの握り。薬味に青葱を添えたカツオお造り。

 燻香が合う、燻製エボ鯛の握りは赤酢の酢飯で。殻ごとのウニが出され、すぐりメロンの漬物で口を休めた後は、脂が上品な、鹿児島出水小アジ青生姜叩きのせの握り。

 赤身づけ握りは鮪用の赤酢飯。シマエビの昆布締めカツオ酒盗で酒がさらに進んだ後は、ノドグロ昆布締めと白イカ山わさび添え。ここでアジの棒寿司生姜紫蘇。穴子白焼きが出され、ザーサイの漬物で口休め。

 中トロ握りの後は、柚子胡椒を添えた蒸しアワビ。少し冷えた温度がほどよいコハダ握りは赤酢飯で。

 余市のウニの握り。あん肝の握りにスイカの奈良漬をのせて出され、ノドグロ皮炙り、出汁に漬込んだエビの握り。鉄火巻き。玉子で締める。

 日本酒の揃えよく、兵庫「龍力(たつりき)」、山口「雁木(がんぎ)」、青森「陸奥八仙」、佐賀「鍋島」など、ペースに合わせて出してくれる。予算は、酒をしっかり飲んで二万二千円ほど。ご主人は快活で、常連や初めての客を隔てることなく、心地よく過ごすことができる。

東京都品川区西五反田5-6-11 NSVビル1階 
電話=03(5436)8338
営業時間=17時半~23時 
定休日=水曜日
二〇一五年話題の店
くろ﨑
酒好きにはたまらない品書き
渋谷に登場した寿司屋の新星

「目立つ場所で店を開きたくはなかったんです。そうしたら、たまたま渋谷にこの物件を見つけたんです」

 と、ご主人がいうとおり、宮益坂の上、ビルの裏手の路地に、その店はひっそりと佇む。
ご主人の黒﨑一希さんは、三十四歳。「二十代から将来のビジョンを掲げて研鑽してきた」というとおり、若手とは思えないほど、寿司や肴、そして日本酒の知識も広い。

 おまかせのコースにすると、肴と握りが交互に供される。こうしたスタイルの寿司屋は他にもあるが、それを模したのではなく、「存分にお酒を飲んでいただきたいが、最初に肴で飲みすぎて、握りの印象が薄まるのを避けたかったから」との考えによるものだという。

 初夏に訪れたある日のコースは、以下のとおり。

 まずは、ふっくらと煮た香り豊かな「佐島産タコの桜煮」、甘辛い味で酒が進む「ツブ貝とワケギのぬた和え」、噛むほどに甘みがある「常磐産マコガレイのお造り」に続き、見事な厚さと香りのある「愛知産本ミルガイの握り」が供される。
そして、脂の乗った「ノドグロの塩焼き煮」、品のある脂が舌に流れる「鹿児島出水産鯵の握り」。赤酢を使ったうま味のある酢飯と鯵がなじむよう、握ったあとに軽く赤酢を散らす工夫が凝らされている。

 続いて、芽ねぎのたたきを添えた「カツオの造り」、「スミイカの糸造りの握り」、「ボタン海老の炭火焼き」。このように、冷たいものと温かいものが交互に出てくるのも面白い。

 茹でたての「枝豆」のあとは、「稚鮎の有馬煮」、珍しい「能登産天然石もずく」と続き、玉子を乗せた、ねっとりと甘い「縞海老の握り」。

 次は、小鉢の酒肴三点。「海苔とウニの佃煮」、「ホタテ酢」、「マコガレイの肝煮」。そして、ふわりと〆たジューシーな「宮津産コハダの握り」、「マグロの赤身の握り」と「中トロの握り」、軽やかな「シロギスの握り」と続き、まだ子を産んでいない牡蠣「ヴァージンオイスター」をつまみで出す。

 さらに、一週間寝かせた「キンメの握り」、とろんと甘く舌にしなだれる「白海老昆布〆の握り」、「穴子握り」、「干瓢巻き」と続き、「玉子焼き」でコースが終了する。

 どうです?このラインナップ。酒を飲めという品書きで、肴十五種、寿司十二種という打順に切れ目なく、タイミングよく出される。

 酒の種類もかなり多く、寿司屋には珍しい「神亀(しんかめ)」(埼玉)もある。
お勘定は、酒を四~五合飲んで、約一万九千円。

 優れた寿司屋の過疎地帯であった渋谷駅東口に、酒好きには危険な新星の登場である。

東京都渋谷区渋谷1-5-9 
電話=03(6427)7189
営業時間=17時半~24時
定休日=水曜日
話題の新店(3)
鮨 銀座おのでら
全国から仕入れる優れた魚介と
スタッフの心地よいサービス

歌舞伎座を背に、東銀座の路地に五月にオープン。店主坂上暁史氏は、札幌の名店「すし善」出身。それだけに、北海道の魚介に精通し、また独自のルートを持って、他店にはない質の高い魚類が用意されている。

例えば、香りの高さにうっとりとなる茹でたての北海シマエビ、小さくて甘く凝縮感のある積丹のウニ、噛むとブリッと音を立てそうに身を爆ぜるボタンエビ、品がありながら豊満な甘みで魅了する毛ガニ、ワサビと葱、鰹節と醤油を合わせたものをまぶして食べる甘い白イカ、キンキの味噌あぶりの握り、脂が舌を翻弄するオオスケ(特に大きなキングサーモン)など。この店ならではの幸せである。

もちろん、北海道以外の地から良質の魚介を仕入れることも怠らない。優しい甘みに満ちた三重県安乗の宝彩エビ、二百五十キログラム以上の本マグロでないと味わえないという、鉄分の味わいが舌をキックするマグロ脳天肉の握り、小さくとも脂がグンと乗った舞鶴金樽イワシなど、「市場でいいものを見つけると、商売関係なくつい買ってしまいます」というご主人の言葉どおり、優れた全国の魚たちが待ち構える。

店はカウンター九席のみ。いつも笑顔と冗談を絶やさないご主人の人柄か、スタッフも気さくで愉快な方ばかりで、銀座といえど堅苦しさは微塵もなく、楽しく、くつろいで過ごすことができよう。

夜の予算は酒を飲んで、二〜三万円と安くはないが、これから銀座の行きつけを作ろう、あるいは接待で使える店を作ろうと考えている人には、料理の華やかさ、鮨の確かさ、ご主人はじめスタッフのサービスともに最適である。まずは、五千円の昼の握りから試してみるのも手である。

東京都中央区銀座5-14-14
サンリット銀座ビル2
電話=03(6853)8878
営業時間=11時~14時、17時~22時
定休日=水曜日
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