味の見聞録

月間アーカイブ:2012年10月
二〇一二年前半オープンの話題の店(2)
フランス料理
Amour(アムール)
しなやかな感性と豊かな想像力による創造的料理

西麻布の瀟洒な建物「メゾン510(ゴト−)」の、一階は女性シェフによる「ビストロボーテ」で、二階がフレンチレストラン「アムール」。ゆったりと客席を配し、窓外の緑が美しく映える優雅な空間。西麻布「エキュレ」でシェフとして腕を振るった後藤祐輔氏の、しなやかな感性と豊かな想像力による、創造的料理がいただける。おまかせランチコースは、小前菜六〜八品とメインの肉料理、コーヒーで六千円。ディナーは、過去のスペシャリテを集積した一万三千円のコースと、旬の食材を使った月替わりのコース一万六千円の二コース。この日いただいた、スペシャリテのコースをご紹介。

「プレリュード」は、トマトのチュイル、クリームチーズとリンゴ、生ハムのパン・フリット。「前菜」は、鱧と玉葱コンフィ、ヴィシソワーズ、アボカドムースポテトチップス、エビ、エビせん、茄子。繊細でいてユーモアもある料理に食欲が刺激される。

「美白2010」と記された皿は、とかちマッシュとコチの昆布〆にコチ肝ソース。みずみずしいマッシュルームのほのかな甘みが素晴らしく、コチの甘い身を、穂紫蘇の香りやケイパーの酸が盛り立てる。

「月の輝き 帆立貝とカリフラワー サマートリュフの香り」は、バターを染み込ませたパンに挟んだまま火を通した帆立貝が素晴らしい。生でも過熱でもない、気品に富む新たな天体をトリュフが妖艶に彩り、生カリフラワーの微かな甘みが寄り添う。

「和洋折衷 フォアグラとセップ 日本とフランスの融合」は、カダイフで巻いたフォアグラと、本シメジ、アワビ茸、セップを合わせた皿。そのあとの「夏色2012 シャラン鴨とオレンジ ミスト調理」は、蒸しながらも、皮と肉の食感の対比を見事に描き、肉を食べる喜びを与えてくれる。

デセール「伝統2009 タルトタタン そして現代」は、ソルベ状にした焼きリンゴとクッキー、リンゴの香りをつけた泡。そして「神秘 ショコラとドライフルーツ」に続き、「余韻」と記した紅茶の質が極めて高く、素晴らしい食事の余韻に花を添える。

東京都港区西麻布4-10-3 メゾン510‐2階
電話=03(3409)1331
営業時間=12時〜13時半(L.O.)、18時〜21時(L.O.)
定休日=月曜日
二〇一二年前半オープンの話題の店(2)
フランス料理
ESqUISSE(エスキス)
日本の食材と食文化への敬意が込められた新しく見事な料理

今年六月オープン。天井が高く広々とした店内は、穏やかな気分を与えてくれる。

シェフは、元「トロワグロ」シェフのリオネル・ベカ氏、シェフ・パティシエは、「ジョエル・ロブション」出身の成田一世氏、シェフ・ソムリエは、元「タテルヨシノ」総支配人の若林英司氏というスーパーチームである。料理は昼夜ともシェフの創作によるコース料理のみで、グラスシャンパン、ミネラルウォーター、前菜、魚料理、肉料理、プレデセール、デセール、コーヒー&小菓子に、お土産が付く。ランチは一万円〜一万八千四百円の三コース、ディナーは一万八千円と二万三千円の二コースで、前菜の皿数によって値段が異なる。

例えば、ある夏の日のメニュー。脂の香りだけをきれいに高めたフォアグラと桃を合わせた皿へ注がれる、鰹節ならぬ鴨節の出汁。手長エビと仔兎のトルテリーニの風味を華やかに包み、かつ親しみやすい温かみを忍ばせる、甘夏の香りと酸味。幽庵焼きなどに見られる、熟成した調味料に合うマナガツオの逞しさを信じた、フェンネルの濃いカラメリゼとの共鳴。

この三皿をとっても、ベカ氏が五年半「トロワグロ」で勤めて得た、日本の食材と食文化への深い敬意をフランス人として消化し、新たな創造的味を生み出した素晴らしさがある。いま世界中で外国人シェフが和食の材料や調理技術を取り込んでいるが、日本人にも驚きを与え、納得させるシェフが現れたことを心の底から喜びたい。

さらには、シェフの父の故郷であるチュニジア、母の故郷のイタリア、育ったフランス・地中海という彼の血が、料理のエスプリとなって放たれる。

仔羊鞍下肉のロティと煮込みに添えられた、羊乳とバニラとレモンのコンフィや、鳩のサルミソースを軽やかにする、隠されたイタリアンパセリの香り。料理のテーマは「エアリー」ということだが、単なる軽さではない。刺激し、喜ばせ、我々の楽しい記憶を喚起しうる力を持つ、新たな空気の創造である。

若林氏が料理に合わせて選ぶグラスワイン・コース「英司コレクション」(二万円)が、これらの料理をさらに盛り上げる。また、トウモロコシや果物など、一つの食材の多面的な魅力を見事に表現した成田氏のデセールも秀逸。

東京都中央区銀座5-4-6  ロイヤルクリスタル銀座9階
電話=03(5537)5580
営業時間=12時〜13時(L.O.)、18時〜20時半(L.O.)
定休日=日曜日
※サービス料10%別途
二〇一二年前半オープンの話題の店(2)
日本料理
銀座しまだ
高級食材も手頃にいただける新スタイルの立ち飲み屋

今年一月に開店。銀座路地裏にひっそり佇む、新スタイルの立ち飲み屋。料理長は、麻布十番「幸村」出身ゆえに、割烹料理の流れを汲む皿も多く並ぶ。

まずは五百円で用意される小鉢類が嬉しい。おひたし、きんぴら、大根煮、ポテトサラダ、フィッシュカツ、ニシンなど、いずれも丁寧な仕事による、きれいな味の惣菜が心を開く。

黒板の日替わりの品書きには、「ばちこそば」六千円といった高額な料理もあるが、他は八百円〜千八百円。「鱧の落とし」や「松茸焼き」といった高級食材も、真っ当な味わいで千八百円と手頃にいただける。

ある日のおすすめは、蟹の風味が口一杯に広がる「ズワイガニコロッケ」千四百円、甲殻類の滋味に伊勢エビの卵とたっぷりのウニが加わった「伊勢エビのジュレ」千六百円、肝ソースが添えられた「アワビの酒蒸し」千六百円、薄味に炊かれた大根とじっくり味を含んで煮込まれた牛スジを合わせた「牛スジ大根」八百円など、予算と腹具合に応じ、気ままに頼むのも楽しい。

締めには、ふわりとからすみ粉がかかった「からすみそば」をぜひ。

四人掛けボックス席も一つあるが、予約は一ヶ月以上先まで埋まっている。

東京都中央区銀座8-2-8 高坂ビル1階
電話=03(3572)8972
営業時間=17時〜23時(L.O.)
定休日=日曜日・祝日
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