味の見聞録

月間アーカイブ:2014年10月
二〇一四年話題の店(2)
イタリア料理
mesebaba
亀戸の隠れた名店
素材を活かしたシンプルイタリアン

 亀戸である。住んでいる方には申し訳ないが、イタリアンとは無縁の土地である。

 店はたった八席のカウンターのみ、しかも裏路地のわかりにくい所にある。一人で孤軍奮闘する店主高山大さんは、昨年末この店をオープンした。

 一人ですべてこなしているのにもかかわらず、実に手際がいい。ほとんど待たすことなく、スムーズに数組のお客さんに皿を提供していく。

 ある日頼んだ食事を再現しよう。

 一皿目は、「ファリナータ」。イタリア版お好み焼き。チェーチ(ひよこ豆)の粉に、オリーブオイルと水、塩を加えて生地を作り、それを薪のオーブンでカリッと焼いた料理である。質素な料理だが、表面はカリッと香ばしく、豆の油分とオリーブオイルの香りが融合して、なんとも食欲をくすぐる。そして中はふわりと、豆の甘みに満ちている。

 次が、「鰯のヴェネツィア風」。鰯を丸ごと揚げてマリネした料理で、鰯のうま味、マリネ液の酸味、野菜の甘みの渾然に、ワインが進む。

 そして、白インゲンのペーストと干し鱈を混ぜ、バゲットにのせて焼いた皿。北イタリアの人が毎日頬張るマンマの味。優しく温かく、毎日食べても飽きないたくましさに満ちている。

「豆料理のうまい人は、料理がうまい」、これは原則である。この店は豆料理の数が多く、中でも「イタリア産グリンピースの煮込み」は、豆料理が好きで、かつ得意とする高山さんならではの一皿。イタリア産グリンピースは日本のものに比べるとやや小粒だが、食べれば甘く、甘さの奥に豆の生命力を感じるうま味の深さがあって、フォークを運ぶ手が止まらなくなる。

「このソースは子袋に合うと思って」と、出されたのが「子袋のアラビアータ」。茹でた子袋に辛いトマトソースが和えられている。クニュッと噛みしめると、ほのかな甘みと微かな苦みが滲む子袋に、キック力のある辛いソースがよく合う。

 そして再び豆料理。「ひよこ豆のズッパ(スープ)」。豆と水だけなのに、豆の甘みだけではない、うま味がある。自然の優しさに満ちたうま味に舌が涙し、体が震える。シェフの誠実が生んだ料理である。

 最後は、「トマトのスパゲッティ」。いわゆる、トマトソースのスパゲッティである。具は一切なし。この潔さが素晴らしい。熟れたトマトのうま味に、小麦粉の甘みが絡んで、実においしい。

 またある日のメニューは、ピサの斜塔で有名なピサで収穫されるインゲン豆「ピサの豆の煮物」。三時間煮た豆は、皮はあるのに、まるでないかのようにくにゃんと潰れ、豆の甘みがムースのように口の中に広がっていく。この茹でた豆にオリーブオイルをまぶし、ボッタルガ(カラスミ)を振りかける。オリーブオイルの香りとボッタルガの塩気と出合った豆は、噛めば甘みの優しさを深めて潰れていく。

「仔鳩のフリット」は、手で持って齧れば、血の香りが破裂して口の中を蹂躙し、鼻に抜けていく。また「兎のレバーのクロスティーニ」に、夏トリュフをこれでもかと削れば、トリュフの妖艶とレバーの猛々しさが舌の上で接吻して、官能が体を駆け巡る。

 店は早くも予約至難。都心のイタリアンだけで満足しているようじゃ、甘いことを知る店である。

東京都江東区亀戸6-26-5 
電話=03(3636)5550
営業時間=17時〜翌2時頃(材料が終わり次第閉店)
不定休
二〇一四年話題の店(2)
フランス料理
restaurant unique
肉料理好き、フランス料理好きが通いたくなる店

 目黒駅から徒歩十五分の場所にオープンしたビストロ。駅から離れてはいるが、周辺は個性豊かなカフェや飲食店が多く、今後注目されるであろう地域である。

 シェフは、目黒の人気ビストロ「キャスクルート」で四年半シェフを務めた、中井雅明氏である。

 奥がオープンキッチンになった縦長の店は、カフェを改造したようなカジュアルなインテリアで、シェフが一人、サービスのフランス人が一人という布陣である。

 メニューを開くと、「キャスクルート」時代にも評判を呼んだ肉料理がずらりと並んでいる。「鹿のロティ ソースポアブラード」、「アグー豚の皮付きバラ肉のコンフィ」、「ヴァンデ産鴨のロティ 濃厚サルミソース」、「仔鴨の半身丸ごとコンフィ」、「七十日間熟成経産牛骨付きリブロースのロティ」など。堂々たるフランス料理である。客数十六席ほどの小体な店なのに、この肉料理の充実ぶりは素晴らしい。

 しかも、ソースポアブラード(鹿の出汁をベースにした胡椒風味のソース)や、サルミソース(鴨のガラや血などを赤ワインで煮込んだソース)といった、手間暇かかるオーソドックスなソースを揃えている点が、さらに面白い。

 現代のカジュアルフレンチは、ただカジュアルなだけでは成り立たない。「何かに特化させる」が、キーワードなのである。

 前菜にも、またまた食いしん坊心をくすぐるメニューが並ぶ。

「豚足とジャガイモのグラタン トリュフ風味」は、豚足のコラーゲンの甘みとジャガイモの甘みが抱き合い、そこにトリュフの妖艶が重なるという、フランス料理たる喜びに満ちた皿。

 また、「濃厚魚のスープ」は、魚介のエキスが凝縮して、一匙飲んだだけでも充足感が訪れる深い味わい。
そしてメイン。「アグー豚の皮付きバラ肉のコンフィ」は、皮下の脂がなんとも溶けるように甘く、顔が崩れる。皮の食感、皮下の脂の甘み、肉汁に富む豚の身の滋味に思わず笑い出す。

「ヴァンデ産鴨のロティ」は、サルミソースの味の深みと鴨の鉄分が共鳴して、赤ワインをグビグビと飲ませる。

そして「七十日間熟成経産牛骨付きリブロースのロティ」。表面はガリッと香ばしく、中は一面ロゼ色に焼き上げられて、熟成肉ならではの甘い香りと豊かな肉汁が口腔に溢れ、これまた赤ワインを片手に噛みしめる喜びを堪能する一皿である。

冬には山鷸(ヤマシギ)や野兎も登場するという。肉料理好き、フランス料理好きなら通いたくなる店である。

東京都目黒区目黒3-12-3 松田ビル1階 
電話=03(6451)0570
営業時間=[昼:金〜日]12時〜13時(L.O.)、[夜:火〜日]18時〜22時半(L.O.)
※火〜木の昼は事前予約営業
定休日=月曜日
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