味の見聞録

月間アーカイブ:2015年10月
ネオチャイニーズ
中国料理
虞妃
値段は手頃で、味は本格
何度も通いたくなる四川料理店

 昨年暮れ、代々木上原商店街の路地に開店した中華ダイニング。十数人は座れるカウンター席と、その奥に四席のテーブル席がある。料理長とサービス兼料理助手の男性二人だけで営む小体な店である。

 「虞妃」は、古代中国の武将・項羽の愛人とされる、紀元前二〇〇年頃に実在した美人妃。そんな歴史上の人物を店名にしている点もユニークである。

 料理長の佐藤剛氏は、一九八三年生まれ。四川に留学経験があり、東京都内の有名四川料理店で働いていた経験を持つ。そのため、店で出す料理は四川料理が中心だが、三十代ならではのしなやかな感性で、個性的な料理も用意されている。

 前菜ならまず、「大山(だいせん)地鶏のよだれ鶏」千六百円がいいだろう。口水鶏(コウシュイジー)=よだれ鶏は、おいしさのあまりよだれが止まらないところから命名された四川の名物料理で、茹でた鶏モモ肉に、ごま油、辣油、唐辛子、黒酢、砂糖などを混ぜたタレをかけ、香菜やナッツなどを散らした皿である。甘辛さと油のコクが鶏を持ち上げるが、ややもするとしつこくなってしまう。しかし、佐藤料理長が作るそれは、油を多用しているにもかかわらず、油っぽさがなく、味のバランスがすっきりとして、後味がいい。茹で鶏肉もしっとりと仕上がっており、味わいがきれいである。この一品だけでも料理長の腕を窺い知ることができる。

 「牛頬肉の燻製」千四百円は、燻製香を利かせたコラーゲンに富む頬肉が実に旨い。
「豚ガツのピリ辛和え」千二百円は、ガツや葱、セロリの切り揃え方、ガツの茹で方、味付けの調和の良さなど、下ごしらえの確かさが光っている。ガツの下に敷かれたレモンの酸味と香りが効果的で、しみじみとおいしい。

 季節には「鮎の春巻き」(二匹で千円)も、ぜひ。ササゲの泡菜(漬け物)と大葉を一緒に挟んで揚げ、その青々しい香りと鮎との相性を楽しむ。なにより春巻きの巻き方が素晴らしく、緩く、しかしきっちりと巻かれているため、サクッと軽く皮が弾けて、春巻きという料理本来のおいしさがある。

 主菜では、ぜひ「仔羊の麻辣豆腐」千六百円を。四川省の豆板醤の名産地であるピーシェンの豆板醤を使用。そのなかでも、おそらく寝かせ方が長いものなのだろう、入手が難しい黒い豆板醤を使っていて、その深いコクが舌を唸らせる、ほかにはない麻婆豆腐である。豆腐は熱々、ソースと豆腐の濃度のバランスもよく、油のキレもいい。豆?も使うが、一旦、醤油や紹興酒、辛味を加えて炒めてあるため、いわゆる豆?臭さや塩辛さはまったくない。

 仔羊が苦手な向きは、同じ豆板醤と、牛挽き肉と葉ニンニクを使った、店の人気メニュー「特製麻婆豆腐~土鍋仕立て」千八百円をおすすめする。

 腐乳で炒めた「えん菜の炒め」千二百円も火の通しが精妙。そのほか、「穴子と万願寺唐辛子の甘辛炒め」千四百円や、「牛タンの色々茸入りトリュフソースがけ」千六百円といった面白いメニューもある。

 二千円を超える料理はほとんどなく、値段は手頃なのに味は本格、しかもカジュアルな雰囲気で、何度でも通いたくなる店である。近隣に住む人が羨ましい。

東京都渋谷区上原1-17-14 LAビル1階 
電話=03(6407)0217
営業時間=11時半~14時(L.O.)、17時~22時(L.O.)
定休日=水曜日
※表記の価格はすべて税別。
ネオチャイニーズ
中国料理
DAINI’S table
フレンチの料理人による
モダンな新中華料理

 中華料理店といえば、大皿料理と回る円形テーブルが当たり前だった時代に、従来とはまったく違う内装とサービスで、〝モダンチャイニーズ〟という新潮流を生み出した「DAINI’S table」。ファッションデザイナーや芸能人など、数多くの著名人にも支持されてきた当店が、創業三十五周年を迎えた今年、新たな挑戦に臨んだ。フレンチの梶間稔シェフを迎え、フランス料理と中華料理を融合した〝新中華料理〟の提供をスタートしたのである。

 ある晩夏の日の一万円のコースをご紹介。

 アミューズに「リンゴ飴に見立てたトマト飴」。ミニトマトに飴がけした可愛い皿は、甘みの中から酸味と塩味が飛び出して、食欲を刺激する。

 前菜は「皮蛋(ピータン)豆腐」。砕いた豆腐の上に、ザーサイと混ぜた皮蛋の黄身をのせ、さらに細かくした白身をピュレ状にしてかぶせた、〝エレガントな皮蛋豆腐〟である。

 続いて「鮪のミキュイ 胡瓜の甘酢 クラゲのルイユ シェリー酒と醤油に漬けた卵黄の盛り合わせ」。表面だけをサッと炙った鮪の細長い造りの両側に、クラゲと胡瓜の食感をアクセントとして添えた料理である。シェリーの香りがほんのりと漂う卵黄につけて食べると、鮪のうま味が膨らむ。

 四皿目は「焼きフカヒレのコンソメスープがけ」。以前から、厳選した質の高いフカヒレを出す店として知られていたが、上湯(シャンタン)でなくコンソメにした点が面白い。きれいに取られたコンソメの深く丸みのある滋味が、フカヒレと馴染む。

 魚料理は「辛くない海老のチリソース」。アメリケーヌソースの方法で、甲殻類のうま味をたっぷり溶け込ませたソースをほんのりと辛く仕立て、魅了させる。

 肉料理は「木の実をまとった牛フィレ 朝天唐辛子の香り」。なにより、木の実の甘い香りに包まれた牛肉の味わいが、心をくすぐる。そこへ四川の朝天唐辛子の刺激的な香りが加わって、食欲を煽る。

 ご飯は「トリュフと卵の炒飯」。微塵に切ったトリュフがご飯の一粒一粒に絡み、妖艶な香りを放つ炒飯である。クセになるは間違いなし。

 デザートは、生のスイカの清涼感とチーズのコク、甘酸っぱいルバーブソースが共鳴しあう皿で、中華料理にはない食後の夢見心地を運んでくれて、素晴らしい。

 いずれもフランス料理のエッセンスを巧みに生かし、ダイナミックな中華料理に色香を付け加え、ますます瀟洒な内装に似合うエレガントな料理になったといえよう。ワインと共に食せば、他店にはない時間を与えてくれるだろう。

東京都港区南青山6-3-14 サントロペ南青山ビル地下1階 
電話=03(3407)0363
営業時間=11時半~14時半(L.O.)、17時半~22時(L.O.)
定休日=日曜日
※サービス料・税別。
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