味の見聞録

月間アーカイブ:2016年03月
ファインダイニング
フランス料理
Quintessence
日本の四季を感じさせる
個性豊かな料理

 開店二年目の二〇〇七年以来『ミシュランガイド東京』で三ツ星を獲得し続け、世界中からお客さんがやってくる名店。岸田周三シェフの類い稀なるキュイソン(加熱)の技と、日本の四季を感じさせる個性豊かな料理で魅了し続ける。

 まずは突き出し「牛テールのスープ」から。ミノを刻んだ茶色のテールスープの上に、フキノトウの泡化させた白いスープがのる。テールから滲み出た滋味に富むコラーゲンの甘みを、フキノトウのほろ苦みと香りが引き締める。雪の下でひっそりと生きている春。そんな、これから来る春への想いをつのらせるスープである。

 二皿目は「山羊のチーズのババロワ」。京都の酪農家による山羊チーズのババロワに、塩とオリーブ油をかけた白一色の皿。開店以来毎日出し続けられている定番の前菜だが、季節によって、チーズの風味が違うため、オリーブ油の配合を変えているという。

 三皿目はフォアグラの料理。イギリスの青カビチーズ「スティルトン」のスフレの中にフォアグラを入れたもので、スフレとフォアグラのベストな加熱状態がピタリと合わされている。上には刻んだ金柑と薄くスライスした生のカリフラワー、少量のオリーブ油がかけられる。うっとりとさせるフォアグラの脂の香り、チーズの塩気、金柑の甘酸っぱさ、カリフラワーの食感が美しい均整美を見せる。すべてが丸く、舌の上でダンスを舞う、優美な前菜である。

 魚料理は、切り身ながら堂々たる体躯の「徳島の鰆」。岸田シェフの真骨頂、キュイソンの極みであるその鰆は、中心が半生で仕上げられている。加熱された皮と身の穏やかな甘み、しっとりとした食感で崩れゆく半生部分の色気、両者が口の中で混ざり合って陶然となる傑作である。

 肉料理は「イノシシのシヴェ」。シヴェとは、赤ワインで煮込み血でつないだ料理だが、その料理が本来持つ重厚さが、いい意味で微塵もない。雑味が一切なく、ソースと肉の境界線がなく、猪そのものをいただいているような純な味わいがある。

 デセールの一皿目は「栗のお菓子」。一℃で氷温熟成させた栗のフランに、煮出した渋皮のムースが、てろんとしなだれる。微かに入れられたカスタードが、栗の甘みを静かに下支えしている。栗そのものの実直なうま味が朴訥と語りかけてくる、計算は精緻だが、どこまでも自然に近づこうという意思に満ちたデセールである。
二皿目は、「パンペルデュ」。ブリオッシュとカラメルソース、スイスの香り豊かなチーズ「アッペンツェラー」を合わせた料理である。パンの風味、チーズの塩気と酸味、ソースの甘苦みが見事に溶け合う一皿。

 お昼のコースは九千五百円(税・サ別)。この素晴らしい昼餐に、ゆっくり時間を取って出かけられてはいかがだろうか。

東京都品川区北品川6-7-29 ガーデンシティ品川 御殿山一階 
電話=03(6277)0090(予約専用)
営業時間=12時~15時(13時L.O.)、18時半~23時(20時L.O.)
定休日=日曜日を中心に月6回・年末年始・夏期休暇
ファインダイニング
フランス料理
NARISAWA
自然の恵みへの
大いなる敬意に満ちた料理

 日本の食材を駆使しながら、フランス料理や日本料理という垣根を越えて、自然の恵みへの大いなる敬意に満ちた料理がここにはある。食べるほどに成澤由浩シェフが思い抱く食材への感謝が募る料理でもある。

 お昼のコースは二万円(税・サ別)。スタートは、木の小さな筒切が置かれた板に雪景色が描かれ、小さな雪だるまも置かれている。まずは筒に入った水を飲む。木の澄んだ香りが体を突き抜け、多くの命を育む森へ歩んだような感覚になり、都会の日常から突き放される。雪は自家製のおからを粉にしたもので、雪だるまは蕪、むかごも散らされている。それぞれの食感、淡い味わいに味覚が浄化され、素敵な食事が始まる。

 三品が盛られた前菜。きれいな滋味が広がる兵庫三田産の長期飼育のイチボと天橋立の無農薬米を合わせた料理。高知産フルーツトマトの甘みと宮崎産キャビアの塩気が味を盛り立てる伊勢海老。そして深々とした滋養の味わいに唸るイラブースープは田芋と冬瓜入りである。

 三皿目は、明石活け越し鯛と能登ボタン海老の昆布締に、柚子胡椒と一番出汁を添えたセビーチェ。柚子胡椒が出過ぎておらず、その香りと出汁の静かなうま味、潜んだ酸味が鯛の甘みを引き立てる。

 四皿目は、小長井の蒸しガキとトマトと出汁のソース。トマトの柔らかな酸味が、海の豊穣と抱き合う。

 五皿目は、駿河湾産の手長海老に、ゴボウを使った白い泡状のソースがふわりとかけられている。ゴボウのほのかな甘みと土の香りが見事で、手長海老の甘みを優しく膨らまして、幸せな気分にさせる。

 六皿目は「フグ白子とズワイガニ、蓮根もちの出汁あんかけ」。蓮根饅頭の温かいうま味に、濃厚な白子の味わい、ズワイガニの甘みと香りが重なり合って、陶然となる逸品である。

 七皿目は「豚と鶏を六時間蒸したスープと柔らかく火を入れた鮑」。なにより豚と鶏のスープが素晴らしい。奥深い美しいうま味があって、その中で鮑が喜んで浸かっている。鮑を噛みスープを飲めば、山と海の滋味が舌の上で馴染み、体の底へと落ちていく。

 八皿目は、黒文字に刺した焼きフグの木の芽添え。香ばしい黒文字の香りをほんのりと宿したフグは、焼かれて凛々しく、自ら持つ強さを口の中に溢れさせる。

 九皿目は、焼きスッポン。香ばしい焼き焦げがついたスッポンに齧りつけば、そのたくましい味に目を見開き、勇壮な味わいに心打たれる。

 十皿目の肉料理は、牛肉、豚肉、合鴨、仔鳩の中から選ぶ。この日選んだ牛肉は、炭化させた下仁田葱を周りに貼付けたロティ。一面ロゼの見事な焼き上がりで、噛むごとに舌の上に肉汁が広がり、肉を食らっている喜びが湧き上がる。

 その後は、二皿のデザートとワゴンデザートと続く。

 料理にペアリングされるのは、ほとんどが厳選吟味された日本酒で、その相性の良さに驚くは必至。

 テーブルに置かれた石釜で焼き上がるパンも含め、他の命を絶って我々が生かされていることを再認識し、命とこの国への感謝が湧き上がる、素晴らしき十三皿である。

東京都港区南青山2-6-15 
電話=03(5785)0799
営業時間=12時~15時(13時L.O.)、18時半~20時(L.O.)
定休日=日曜日・月曜日
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