味の見聞録

月間アーカイブ:2016年08月
話題の新店 フランス料理編
フランス料理
L’orgueil(オルグイユ)
シャンパンと相性の良い
旬の厳選素材を生かした料理

 今年二月に開店。青山の裏通りのビルの二階、看板も表札もなき黒い鉄扉を開けると、そこが店である。カウンター二席と二名テーブルが五つという小体な店を、シェフとサービス二人で切り盛りされている。

 加瀬史也オーナーシェフは三十歳。恵比寿「レストラン ヒロミチ」、フランスの「レ・クレイエール」、北品川「カンテサンス」などを経て独立。ディナーは一万五百円(税別)のコースのみ。ペアリングは、シャンパーニュ地方の店にいた時にその魅力に目覚めたというシャンパンで合わせる。

 六月のある日のコースのアミューズは、「そば粉のタルトフランベ」。アルザス郷土料理で、薄い円形のパン生地の上に、ウチワエビ、枝豆、キャラメリゼした玉葱、オマールの卵がのせられている。

 二皿目は「ウフ・ブイエ」。スクランブルエッグにウニをのせ、周囲には牛乳で伸ばした蛤のエキスを流し、アーモンドとアネット(ディル)が散らしてある。丁寧に加熱されたスクランブルエッグの滑らかさとウニの食感が共鳴し合ってうっとりとさせ、それらを、牛乳で薄めた蛤のうま味が静かに持ち上げる。アーモンドとアネットの香りのアクセントも見事。

 三皿目は「佐島のタコ」。生のタコ、フリットした吸盤、グリルしたタコを盛り合わせ、そこにローストした胡瓜とトマトを添えてある。加熱方法によるタコの風味の違いと、力強い野菜の組み合わせが素晴らしい。

 四皿目は「穴子」。ローストした賀茂茄子と生の賀茂茄子に、白焼きの穴子、乾燥させた榛原牛の内腿肉の極薄切りをのせ、フォン・ド・ヴォーとカリンビネガーのソースを添えた料理。穴子と肉を一緒に食べれば、凝縮した肉の滋味がタレの役目を果たして穴子を持ち上げる。見事な発想である。カリンの酸味を生かしたソースもいい。

 五皿目は、ウロコごと皮をパリッと焼き、身をしっとりと加熱した「金目鯛」の料理。噛めば、身にはしなやかさがあり、一方の皮はサクサクと痛快に砕ける。そこに、カラマンシー(柑橘類)ビネガーと金目鯛のジュのソースが溶け合い、エキゾチックな酸味が金目鯛の脂気を引き締めながら甘美さを演出し、陶然とさせる。添えられた茹でたてのインゲンの青い香りとみずみずしい歯応えが、さらに盛り立てる。すべてに意味がある一皿である。

 六皿目は「ブレス産鳩のコンポジション」。ロティした胸肉、網焼きした腿肉、串焼きしたレバーと心臓、肝とブレゼにしたささみ、フリットにした手羽先に、肝をミンチにして赤ワインと合わせたソースを流し、大和真菜とジャガ芋のロティを添えた料理。各部位の肉質を生かした見事な火入れ、調理法が光る。

 デザート一皿目は、パートシュクレの上にパインソルベと凍らせたパインをのせ、サワークリームパウダー、レモングラス、塩をかけた一品。二皿目は、レモンクリームを詰めたフォンダンフロマージュと、ラムとカルダモンのアイスクリーム。フレンチのエスプリが効いたデザートである。

東京都港区南青山4-3-23 オリエンタル南青山201 
電話=03(6804)5942
営業時間=12時~13時(LO)、18時~19時半(LO) 
定休日=不定休 
話題の新店 フランス料理編
フランス料理
Sincere(シンシア)
フレンチをベースに変幻自在
驚きとユーモア溢れる料理

 超人気店だった渋谷「レストラン バカール」(昨年閉店)でシェフを務めていた石井真介氏が、オーナーシェフとして今年四月に開いた店。早くも人気で、連夜満席。

 店は、マンションの地下にあるが、屋外のテラス席を持った開放的なロケーションで、緑と茶を基調にした室内は、温かさと落ち着きがある空間となっている。

 フレンチをベースにしながら変幻自在、その日のテーマを基軸に、驚きやユーモアを交えた料理で我々の胸をときめかす。ある日は、「繋ぎ」をテーマにした九皿のコース九千六百円(税・サ別)だった。

 一皿目は「牡蠣のムニエル」。牡蠣は、ベルモットバターソースや柚子パウダー、紫蘇の葉など、爽やかな香りに包まれて、食欲を刺激し、続く料理への期待を高める。

 続いて運ばれるのは「ストウブ鍋」。中にはヒートパックを下に忍ばせた石、海藻、生の車エビが置かれ、水を入れると加熱して蒸される仕掛け。卓上で調理が完成する。

 その間にミニトマトが一つ。極薄の飴でコーティングされ、マルドンの塩、ミニョネット、ローズマリーがつけられている。

 三皿目は、カクテルに入った前菜。下からラタトゥイユ、カリフラワームース、コンソメゼリー、ツブ貝、蛤、塩水ウニ、蛤ジュースを泡状にしたものが重ねられている。ウニや野菜の甘み、コンソメや蛤のうま味、ツブ貝の食感などが巧みにバランスよく配され、心を軽やかにする。

 そして、先ほどの鍋を開ければ湯気が立ち、海草の香りをまとった熱々のエビが優しく甘い。

 傍らの木皿には、塩締めして軽く炙った和歌山の金目鯛。

 続いては、氷を詰めたガラスの器に、オイスターリーフ、オクラ、イタリア人参、小蕪、ミニラディッシュなど多彩な野菜が植えられている。これをズワイ蟹の味噌風味のバーニャカウダにつけて食べるという趣向で、「バカール」でも人気を得た料理。

 次に運ばれたのは、可愛い鯛焼き。パプリカを効かせた車エビのアメリケーヌソースに置かれた鯛焼きを切れば、中から先ほどの金目鯛の身が現れる。実に楽しい。

 七皿目の白いムースは、トマトのエキスを凍らせたもの。胡椒の飴、ローズマリーパウダーからなるもので、先ほどのトマトを別の調理法で表現したものである。

 八皿目は肉料理。「今帰仁(なきじん)アグー豚のロースト キノコソース」。濃縮したモリーユ茸の香りと滋味が深く、噛みしめる喜びがあるアグー豚との出会いが素晴らしい。

 デセールの一皿目は「よもぎ日向夏」。日向夏のマーマレードやフレッシュを添えた日本酒のサバイヨンと、よもぎのアイスの皿。二皿目は、チョコレート、胡椒のガナッシュと生姜のアイスで、森で薔薇が咲く様子を表現したという一品。

 トマトや金目鯛のように、同じ食材を別の調理法で表現したり、それぞれの皿の流れに味の繋がりや食材の繋がりをつけた、テーマに沿った料理構成が面白い。サービスも快適で、心地よい時間を過ごせる。

東京都渋谷区千駄ヶ谷3-7-13 原宿東急アパートメント地下1階 
電話=03(6804)2006
営業時間=18時~21時(LO)  
定休日=日曜日、第1・第3月曜日
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