味の見聞録

月間アーカイブ:2016年11月
今年話題の新店
フランス料理
Nabeno-Ism 
日仏の食文化を融合
両国への敬意に満ちた料理

 恵比寿「ジョエル・ロブション」のエグゼクティブシェフを長く務めた渡辺雄一郎氏が、七月に駒形に開店したフランス料理店。隅田川沿いに立つ四階建てのビル全てが店で、一階が厨房、二~三階が客席。四階は展望台になっており、広い空の下、昼は水上バスが川を下っていくのを望め、夜はスカイツリーを含む夜景が輝く。

 アミューズに並ぶのは、雷おこし、最中、オリーブ、ガスパチョ。ノルマンディーバターと合わせた雷おこしも、バジルクリームを載せた最中も、油脂のコクを巧みに合わせることでフランス料理に昇華させている。そして、オリーブやガスパチョには、修業先の南仏の香りが満ちている。

 次の「そばがき」は、両国の名店「江戸蕎麦 ほそ川」で毎朝粉を受け取り、ベシャメルソースの要領で作り、昆布出汁のジュレを張り、キャビアと山葵、ウオッカ風味のクリームを載せる。そばの香り豊かで、それを昆布出汁の旨味が持ち上げ、キャビアの塩気が引き締め、滑らかさと相まって優美な気分を運ぶ。また、三皿目の鮎料理も、トロワグロのツグミのムースに敬意を払ったという、鮎肝のソースが素晴らしい。

 海老料理は、ポレンタ粉でフリットにし、トウモロコシの甘みと共鳴させている。続くフォアグラ料理は、脂の香りの良さを際立たせて、舌の上で優雅に消えていく。

 仔羊は、玉葱コンフィとラベンダーの花を網脂で包み込み、じっくりとロティされている。食べる時に最善の状態になるよう精妙に加熱された羊の味わいが優しい。

 抹茶と果物が調和したデセールと、南千住の名店「バッハ」のコーヒーで終幕。こうして江戸下町の食文化で始まったコースは、フランス料理から再び江戸下町に戻って着地する。「駒形で、江戸とフランスの食文化を融合した料理を提供したい」という、渡辺シェフの日仏両国への敬意に満ちた、どこにもない料理である。

 昼夜ともコースのみで、昼は、七皿構成で一万円。夜は九皿構成で二万円。

東京都台東区駒形2-1-17 
電話=03(5246)4056
営業時間=12時~13時半(LO)、18時~21時(LO) 
※日曜日はランチ営業のみ 
定休日=月曜日・第4火曜日(変動あり) 
今年話題の新店
イタリア料理
anima
伝統料理をモダンに変化させた
力強いイタリアン

 新潟からの魚介と静岡からの力強い野菜を中心にして、伝統料理をモダンに変化させたイタリアンがいただける。三十一歳の若き中村圭佑シェフと、名ソムリエの支配人、金子眞治氏で切り盛りされている。

 ある日の一万円のコースのアミューズは、ニョッコフリット(薄い揚げパン)とサンダニエーレ産生ハム、ティースプーンに盛られた根セロリクリーム、アマゴ、アマゴの卵。軽く燻製にされたアマゴのねっとりとした感覚と香りが食欲をくすぐる。

 続いて「タコのマリネを契約農家から届く野菜と」は、薄切りにした水ダコにかんずりを挟んだもの、タコ足の角切り、タコのタルタルと、三種類の調理法によるタコと、瑞々しい野菜との呼応が楽しい一皿。

 三皿目は「甘海老のキタッラ」。パスタに練り込んだ布海苔の香りとねちっとした食感が、海老の甘みと美しく抱き合う逸品。

 続いて、茸の香り豊かな「ポルチーニの焼リゾットとフォアグラ」。そして、「栗を詰めたトルテリーニ」は、甘い香り漂うカカオ生地と栗の優しい甘みが、合うこと! 添えられたフレッシュチーズのストラッチャテッラの繊細な甘みもいい。

 魚料理は、シェフの修業先シチリアのマンマから教わったという「魚介のクスクス サン・ヴィート・ロ・カーポ風」。魚介とトマトの旨味が濃厚に溶け合ったソースに、キジハタ、海老やイカのフリットとクスクスが添えられる。痛快さに満ちていて、「大盛りを」と言いたくなる美味しさである。

 肉料理は「チンタセネーゼ豚ロース備長炭焼を箱根西麓野菜と」。見事に焼かれた、チンタセネーゼの鉄分を含むような独特の旨味が噛み締められる皿である。

 デザートは、爽やかな「ガリアーノ(リキュール)とマスカットのゼリー、生姜とレモンのシャーベット、梨」と、どこにもない新しい「ティラミス」が楽しい。

 サービスもスマートで、ワインのセレクトも見事。

東京都渋谷区広尾3-2-13 岡野ビル1階 
電話=03(6884)4016
営業時間=12時~13時(LO)、17時半~23時(LO) ※ランチは土・日・祝のみ
定休日=火曜日
今年話題の新店
日本料理
乃木坂しん 
優れた割烹の新星
地に足のついた安定感ある料理

 石田伸二料理長と、支配人兼ソムリエを務める飛田泰秀氏による割烹。これまで一流店で経験を積んでこられたお二人だけに、地に足のついた実質的な美味しさが漂う、安定感のある料理とサービスが光る。

 初夏のコースは、枝豆の風味がそっと滲み出る、なんとも優しい風合いの「水無月豆腐」で始まった。続いて、和え衣の甘みがピタリと決まった「茄子の白和え」。

「牡丹鱧椀」。旨味の芯がありながら味が丸い見事なつゆに、鱧の滋味が溶けていく。「吸い口」はなく、鱧に載せた梅肉とインゲンの「つま」だけというのも潔い。

 お造りは、極めて質の高いアオリイカとマコガレイ。イカは料理長お勧めの酢橘と塩で頂く。続いて、炙ってから割り醤油でヅケにしたメジマグロを、溶き辛子で。

「焼き八寸」。鱧の子と新牛蒡と新蓮根の卵寄せ、天竜川鮎の塩焼、いちじく胡麻ソース、タコ小倉煮、丸十(さつま芋)、蓴菜(じゅんさい)、茗荷。それぞれの味のあたりが素晴らしい。

 そして、酢橘ジュレを添えた四国三郎牛のヒレ肉の焼き物、冬瓜と石川芋の出汁ゼリー掛けと続く。

 最後は、見事な鰻の蒲焼と、炊きたての京都ヒノヒカリの白飯、上等な味噌汁と新香で有終の美を飾る。デザートは、スイカゼリーに塩アイス、わらびもち。

 昼五千円~、夜一万五千円~。本号が出る頃にはおそらく、香箱蟹や、蕪、頭芋などの根菜類が出されるだろう。飛田氏が勧める日本酒・ワインのセレクトも精妙。久々に出てきた、優れた割烹の新星である。

東京都港区赤坂8-11-19 エクレール乃木坂1階 
電話=03(6721)0086
営業時間=12時~13時半(LO)、18時~21時半(LO) 
定休日=不定休
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