味の見聞録

月間アーカイブ:2017年07月
割烹のお昼ご飯
日本料理
新宿・京懐石 柿傳
静謐な空間で懐石をいただく
大人の「心の道草」

 本格的なお茶事の懐石教室として江戸後期に始まり、以来、茶の湯文化と本格茶懐石を今に伝える「柿傳」。「新宿に大人の道草の場所を」という川端康成の言葉をきっかけに、新宿に開業し四十年余になる。

 ビルの六~九階の店舗の中、八階はテーブル席の客席があり、昼は四千円から料理を楽しむことができる。新宿の雑多な喧騒から遮断された静謐な空間で、座っただけで背筋が伸び、心が穏やかになっていく。

 なにより心配りが利いた半東さんのサービスが素晴らしく、どなたをお連れしても、清々しい印象を持たれるだろう。

 初夏の「雪コース」一万円をご紹介。

「先付」は、細かく切ったオクラとクコの実を散らした、大徳寺麩 ホタテ、ズイキの胡麻和え。それぞれの質朴な味わいに、懐石の心が沁みている。そのしみじみとしたおいしさにより、これから料理をいただくありがたみが湧き上がってくる。

「凌ぎ」は、干しコノコの細切りをのせた飯蒸し。椀の蓋を開けた瞬間、干しコノコの香りが立ち上がって、目が細くなる。一晩水に漬けたというもち米は、優しい甘みを忍ばせて、舌に丸い。

「温肴」は、長芋、人参、サヤエンドウ、かも丸(がん)(鴨の肉団子)に湯葉。だしの味わいを抱きしめながら、均一に滑らかに火が通った長芋、人参やサヤエンドウの香り、鉄分のたくましい滋味がこぼれるかも丸、湯葉の淡い淡い甘みなど、それぞれの持ち味が生かされていて素晴らしい。

「向付」は、 アオリイカと鯛、カンパチのお造り。ねっとりと甘いアオリイカ、質の高さを感じさせる鯛の香り、カンパチの品のいい脂を楽しむ。

 木の板にのせられた「八寸」は、 茹で海老、生姜を添えたメカブの酢の物、サツマイモのレモン煮、トコブシ、小メロン昆布〆。質素ながら、それぞれに意味のある味付けがなされ、色合い、味わい、食感が異なる五品を、じっくりと順に味わっていく喜びがある。

「煮物椀」は、鱧(はも)の葛叩きと玉子豆腐、つる菜の椀である。一口目は淡味なれど、次第に最後に向かって頂点のうま味を目指すつゆの素晴らしさ。鱧と葛の一体感。玉子豆腐の滑らかさ。つる菜の香り。正統煮物椀としての洗練した美しさがある。

「焼き物」 は、蓼酢(たでず)を添えた、鮎の塩焼きが出された。添え物は、 玉子カステラと獅子唐芥子にはじかみ。見事に香ばしく焼かれ、頭から骨ごと食べれば、鮎の命が口の中で爆ぜる。

「酢の物」は、 蟹、糸瓜、水菜、エリンギの辛子浸し。同寸に切って和えられた、仕事の光る和え物で、しっかり蟹の甘みが伝わってくる。

「食事」は、 生姜ご飯に青海苔と、赤だしのアサリ汁、香の物である。質朴な生姜ご飯に青海苔というのがいい。ご馳走をいただいた後に贅沢な食材を使った妙な色ご飯では、口も胃袋も疲れるからである。赤だしも香り高く、香の物も上等。

 食後をすっきりとした気分で迎え、「吉野スイセン」と銘打った冷たい葛きりをいただき、箸を置く。そして最後に運ばれてくる抹茶を静かに飲み、落ち着いた心を感じながら「ごちそうさまでした」と手を合わす。

 日々の忙しさから解放し、本来の自分の姿を取り戻す。現代人にとって最も必要な「心の道草」がここにはある。

東京都新宿区新宿3-37-11 安与ビル6~9階 
電話=03(3352)5121
営業時間=11時~14時LO(土日祝15時LO)、17時~20時LO(茶室19時半LO)  
年中無休(年末年始・夏期旧盆除く)
※税・サービス料別途
割烹のお昼ご飯
日本料理
乃木坂しん
本来の日本料理のあり方を貫く
注目の店で昼の贅沢を味わう

 昨年六月の開業以来、誠実な仕事が評判を呼び、着実にファンを増やしている注目の店。最近は、やたら高級素材を使い、人気を得ている割烹が増えているように思うが、「乃木坂しん」はそうした店とは一線を画す。

 旬を見つめ、野菜料理を大切にし、本来の日本料理のあり方を貫く。店主・料理長の石田伸二氏と、以前同じ店で働いていた、支配人兼ソムリエの飛田泰秀氏との絶妙のコンビネーションで、他の日本料理店とは異なる楽しみを与えてくれる。

 昼のコースは七千円から。初夏の料理は、白アスパラに、ミニ青梗菜と毛蟹のほぐし身をのせ、黄身酢をかけた「先付」から始まる。白アスパラガスのミネラル感、青梗菜のみずみずしさ、毛蟹の優しい風味がバランスよく抱き合い、黄身酢の丸いうま味でまとめられている。夏の到来を感じさせるおいしさである。

「煮物椀」は、椀種がうずら真薯餅包み、椀づまがジャガイモ、刻み茗荷、ミニアスパラである。一口飲めば、淡さの中に品格を感じる丸い味わいがすっと舌に流れる。また椀種が、最近ではあまり見なくなったうずら丸というのがいい。うずらの鉄分が品格あるつゆに溶けていく味わいが見事。

「お造り」は、カツオとアオリイカ。炙った藁火の香りが香ばしい、きめ細やかな身質のカツオ。隠し包丁が入れられた、ねっとりと甘いアオリイカは塩でいただく。共に、すこぶる上等。

「焼き物」は、イサキが出される。新玉葱の炭火焼きと卵の寄せ物、人参添え。はらりと崩れゆくイサキが甘い。

 続いては「アイナメ揚げ出し」。万願寺唐辛子と茄子、エリンギ、大根おろし添え。アイナメ自体のうま味、生命力を感じさせる一品で、食べればすっと背筋が伸びるような、誠実な味わいがある。

「食事」は、タコご飯に、店主の故郷徳島より、香り高い御前味噌の味噌汁と香の物。タコご飯は、炊いた干しダコとその煮汁でご飯を炊き、蒸らす際に生のタコを入れたものである。栗のような甘いタコの香りに満ち満ちていて、ほのぼのとしたおいしさが忍び寄る。

「デザート」は、ココナッツや和三盆を使ったゼリーや寒天を入れたフルーツポンチに、ライムとレモンのソルベ。

 カウンター七席。個室もいくつかあるが、ぜひカウンター席で石田・飛田両氏と会話を交わしながら、じっくりと昼の贅沢を味わいたい。

東京都港区赤坂8-11-19 エクレール乃木坂1階 
電話=03(6721)0086
営業時間=12時~13時半(LO)、18時~21時半(LO )  
不定休
※税・サービス料別途
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