味の見聞録

月間アーカイブ:2017年08月
フランス料理の新星
フランス料理
Crony
体が澄み渡っていく料理と
ワインとの見事なペアリング

 西麻布交差点近くに佇むモダンカジュアルな店。オープンキッチンでカウンターとテーブル席、個室の用意もある。二十九歳の若きシェフ春田理宏氏の料理は、十二皿のお任せコース一万二千九百六十円のみ。

 まず出されるのが、黒い皿に盛られた黒石。石の中に「じゃがいもの竹炭衣のコロッケ」が混ざっているという遊びである。グアンチャーレ(豚?肉の塩漬け)のコクが芋の甘みと合わさった味の完成度が高い。

「鶏皮と鶏レバーのテリーヌ」。今度は花と木屑の皿が現れ、中には木屑に似せた鶏皮とテリーヌが隠れているという趣向。

「トウモロコシのベニエ」。乾燥コーンの上に茶色い団子が一つ。トウモロコシの甘みに満ちたベニエに、自家製ビーフジャーキーを砕いてまぶしてある。

「トマト水」。木製ボウルの中には、透明の液体とランタナの花。トマト水(自重で時間をかけて取り出したエキス)を真空にかけて発酵させたものに、カモミールの香りを移した油を混ぜてある。爽やかなトマトの香りにカモミール香がアクセントを添え、練れた塩気が食欲をくすぐる逸品。

「車エビのソテーと人参のピュレ」。サッとソテーしたエビと、カカオニブを混ぜた人参のピュレを合わせ、人参のチュイル(洋風煎餅)を被せて、エビのパウダーをかけたもの。エビの火の通しがよく、人参の優しい甘さと共鳴し、カカオの甘い香りがエレガントさを作る。よく練られた皿である。

「サマートリュフ 胡桃 卵黄」。焼き茄子のピュレ、炒め玉葱のピュレ、そしてトリュフの千切りと砕いた胡桃が一面にかかり、その下に卵黄が隠れている。潰してとろりと流れ出る卵黄の甘み、茄子や玉葱の甘みがトリュフ香と渾然一体となり、色気を漂わす。トリュフと卵は定番の組み合わせだが、そこに茄子の存在感を加え、胡桃香のアクセントを付け加えながら、甘みのグラデーションを演出した秀逸さが光る。

「パンの料理」。黒々としたパンが一つ皿に盛ってある。脇役としてのパンではなく、一つの料理としての表現。天然酵母のパンに、ホエー(乳清)を加えたバターを添える。

「マナガツオ」。精妙に火入れしたマナガツオに、二枚のズッキーニの薄切りが被せてあり、甘夏の皮がふりかけられている。ズッキーニはシンプルにグリルしたものと塩水に漬け込んだもので、合わせて食べれば、塩漬けズッキーニの塩味で上品なマナガツオの甘みが起き上がり、片やグリルズッキーニの焼け香とほのかな甘みは、マナガツオの凛々しさを引き出す。添えられたウニのソースは、あえてウニの主張を抑え、秘めやかな甘みをそっと出している。

「川俣シャモ」。焼いたシャモの上に、焦がして薄皮を剥がした万願寺唐辛子を被せ、グリンピースの粉をかけ、枝豆のピュレが添えられる。ソースはフォンドヴォー。
デザートは「フルムダンベールのタルトレット」「ラベンダームース」「岩手ひとめぼれアイス」。最後は再び黒石が登場し、中に小さな菓子が混ざっているという趣向。

 いずれも食べるほどに、体が澄み渡っていくような皿だった。ストーリーを感じさせるワインとのペアリングも素晴らしい。

東京都港区西麻布2-25-24 NISHIAZABU FTビル 半地下1階 
電話=03(6712)5085
営業時間=18時~翌2時(コースは要予約で20時LO、21時~アラカルト料理)  
定休日=日曜日を中心に不定休
※表示価格は税込・サービス料10%別
フランス料理の新星
フランス料理
Takumi
シェフの意図が伝わる
個性あふれる料理

 夜は一万二千五百円の一コースのみ。

 テーブルにはハガキ大のカードが立ててあり、シェフからのメッセージが書かれている。「料理の意図をできるだけ正確に伝えたい」との考えから、料理一皿一皿全てに説明のカードが置かれ、デザート十一種類には五枚のカードが配られる。また、テーブルにはガラス瓶が五つ乗る木台があり、そこにはそれぞれの料理に使ったハーブやスパイスなどがその都度置かれる。

 一皿目は「ヨーグルトを使ったビシソワーズ パプリカのムース 炙り鯖のマリネ、オールブランのクラムとバジルのムース」。ヨーグルトや鯖の酸味、パプリカの微かな苦味と優しい甘み、オールブランの香ばしさが共鳴する一皿。

 二皿目は「トウモロコシの冷たいスープとフォアグラのフラン」。トウモロコシとフォアグラはよく見かける組み合わせだが、レモンサラダの香りや果汁の泡を加えたことにより、もぎたてのトウモロコシのような青い香りを感じさせる。

 三皿目は「蝦夷鹿のローストビーフ風」。添えられた鹿のコンソメジュレと一緒に食べれば、鹿の肉汁を余すことなくいただけるという趣向で素晴らしい。シナモンとクローブを加えたゴボウのベニエ、バルサミコ酢で煮たレーズン、緑胡椒風味のクレソンサラダなど、付け合わせも面白い。

 四皿目は「焼き穴子のクラムチャウダー仕立て そば粉のパスタ添え」。蛤の丸い旨味の出汁と穴子の力強さが手を結ぶ。上に乗せられたレフォールとジャガイモのサラダの刺激がまたいい。素朴なそば粉の旨味にカラスミを合わせたパスタも秀逸。

 五皿目は「イカの炭火焼き」。炭火で焼いたイカの身、ニョッキに仕立てたイカスミ、塩辛のポタージュ。身と内臓、イカスミを別々の調理法で合わせたフレンチのエスプリがある一皿。添えたカリフラワーに辛いスパイスをかけた一皿も心憎い。

 魚料理は「鯛のポワレ」。ポワレの下に敷かれるソースは、鯛アラを日本酒とともに圧力鍋で炊いてソースにしたものを、オリーブオイルで風味付けしたもの。アラと日本酒を油脂使いによってフレンチに仕上げた、シェフの腕が光る一品。

 肉料理は「鴨ハンバーグ」。鴨ハンバーグの上には、薄黄色のフランのようなものが乗っている。聞けば、蕪とフォアグラを合わせて蒸したものだという。フォアグラのコクと香りだけを生かし、後口に蕪の香りが漂う。鉄分に富む猛々しい味わいの肉塊をエレガントに引き立てている。

 そして、羊チーズのムースにルッコラのソルベを乗せた一皿が出され、デザート。大きな皿に並ぶ十一種類のデザート一つ一つが精緻で工夫が凝らされ、唸るは必至。

 ソムリエのサービスも実にスマート。日本で一切の修業経験がないという二十九歳の大槻卓伺シェフ、新鋭の登場である。
昼のコース六千五百円。昼夜共に要予約。

東京都港区西麻布1-11-10 ビルマーサ1階 
電話=03(6804)6468
営業時間=11時半~15時、18時半~23時半  
定休日=日曜日・月1回不定休
※表示価格は税別・サービス料10%別
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