味のパトロール<読者情報>

安藤 美冬さん フリーランサー・作家

舌も心もワクワクする
〝体温が上がる〟中華料理

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 十代から海外を旅することが大好きで、これまで回った国は六十カ国以上。旅の醍醐味は、何といっても食べること。東南アジアの一食百円程度の屋台から、ミシュラン獲得のレストラン、家庭料理まで、胃袋を満たしてきた食事は多岐に及ぶ。 

 食べるためにお店に通ううちに、人間の織りなすドラマに出くわすこともある。二十一歳の時に留学していたオランダでは、日本の味が恋しくなるといつも大衆向け中華料理屋に駆け込んでいた。ほかほかの白米に、豆腐や豚肉、野菜など、食べ慣れた食材をふんだんに使った炒め物。故郷を遠く離れた当時の自分にとって、地元民から一期一会の観光客、時には夜の歓楽街で働く大人たちと同じ釜の飯を食う時間が格別だった。

 およそ一年半前、出版する本の取材でフィリピンのセブ島に出張した際に出会ったのが山野辺シェフだ。同い年で、たまたま帰国の便が同じこともあって、お店に食べに行くことはごく自然な流れだった。

 銀座八丁目の一角、ビルの地下にある「銀座 やまの辺 江戸中華」は、日本の良質な食材をふんだんに使った品々が楽しめるお店だ。「世界で一番美味しい」と私が自信をもってお勧めする麻婆豆腐を筆頭に、「シェフのおまかせコース」として美しい器で提供される料理の数々は、舌も心もワクワクする、例えるならば〝体温が上がる〟ものたち。稲庭中華そばの「担々麺」は、尾崎牛の肉味噌と和歌山県産の山椒がピリッと利いて、思わずおかわりしたくなる。そういえば、大のカラスミ嫌いを克服できたのも、山野辺シェフのおかげだ。

 カウンター、テーブル席合わせて十席ちょっとのお店は、今や連日満員の大人気店だ。知り合ってから一年も経たないうちに、山野辺シェフは地上波の番組で料理コーナーのレギュラーを抱え、お店には国内外の大手企業の役員クラス、芸能人も通うようになった。その人気の秘訣は、天下一品の料理はもちろんだが、ひとえに山野辺シェフの人柄にあるように思う。食をこよなく愛する彼はプライベートでも食いしん坊で、仲間や家族を巻き込んでは、全国各地、時には海外までグルメ研究に出かけている。私もいつの間にか、親しい友人のよしみで、「美味しいもの同好会」のメンバーになってしまった。

 今日も更けていく銀座の夜。カウンターに座って、普段は決して見られない(笑)、シェフの生真面目な横顔を盗み見るのがまた、愉しい。

銀座 やまの辺 江戸中華
東京都中央区銀座8-4-21 保坂ビル地下1階
TEL03(3569)2520

島田 亨さん 株式会社USEN-NEXT HOLDINGS 取締役副社長 COO

思い残すことなく
海外へ旅立たせてくれる店

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 友人夫婦の待つ豪州に向かうために成田空港についた。ゴールドコースト空港への直行便があるLCCのターミナルに向かおうと思ったが、その前に第一旅客ターミナル中央ビルの四階にできた「NARITA Dining Terrace」に寄ってみた。暫く和食から離れてしまうから、なにか〝納得感〟のあるものをしっかり食べて行きたくなったからだ。

 和食店が並ぶエリアを歩いていて目に入ってきたのが「焼肉食堂やんま」だった。「焼肉」ならわかるが「焼肉食堂」なる不思議な自己主張に興味をそそられ、吸い込まれるように店内に入ってみた。そして迷うことなく、この店のアイコニックメニューらしき「やきすき」の「和牛サーロイン・モモ盛合せ」をオーダー。焼肉食堂といっておきながら、何故「やきすき」なのか…と、半ば裏切られた感を全身に漂わせつつも待つこと五分、なんとも旨そうな「やきすき」がお出ましになった。

 湯気が立ち込める熱々の鉄板の上に、特性のタレに絡められた美味しそうな肉が、艶々のご飯と共に出てきた時には正直驚いてしまった。私は食事をする時には温度にうるさい方で、例えば味噌汁がぬるいと温めなおしてもらうのだが、この店は温度の大切さをよくわかっていて、熱々の肉に、熱々のご飯と味噌汁を出してくれた。空港で頂く食事としてはサイコーな贅沢である。

 そして頂いた肉も、見た目の期待を裏切らない〝本物〟だった。最近よくありがちな安い肉をごまかすためにトリフュらしきものをのせたりする変化球でもなく、てんこ盛りのスタミナ丼のようなガッツリ系でもなく、熟成肉などでもない。なかなか真剣勝負をしている店である。

 悪い癖で、感動をするとついつい店の人にいろいろと聞いてしまうのだが、この店は肉を切ることからタレの調合まで、ひとつひとつを全て丁寧に店内で調理しているということだった。そして艶々のご飯は、地元の農家さんからその日の朝に精米したものを出荷してもらう玄米入りのご飯だそう。また、両国の豆腐屋「豆源郷」の豆腐・油揚げなど、食材は空港のレストランとは思えない厳選したものを使っている。こういう真面目な姿勢がディテールに表れているのだなぁと、納得。

 日本を出発する前に、日本に帰って来た時に、また寄って、今度は違うメニューを頼んでみたいと思う店だった。まさに、「思い残すことなく海外に旅立たせてくれる店」をここに発見。

焼肉食堂やんま
成田国際空港第一ターミナル中央ビル新館四階
TEL 0476(32)3200

ハイヒールモモコさん お笑い芸人

人タラシお腹アラシ

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 食いしん坊な私は、関西で料理番組をもう約十五年も持たせて頂いている。

 美味しい物を食べたい、紹介したい思いで自分でノルマを決めている。毎週新店舗二軒、そして、必ず一日一回の外食を続けている。新しいところも行きたい、気になる店も話題の店も行きたい。が、馴染みの店も行きたい。口がもう一つ、胃がもう二つあればいいのにと毎日思ってしまう。

 今回、私が紹介したいお店は、大阪の福島にある。
大阪では一番の繁華街、美味しい物が集まっているのは梅田、新地と言われるが、一駅横の福島も今すごい人気だ。

 毎日行列のできるラーメン屋さん、すぐ売り切れるパン屋さん、将棋棋士が一階のレストランから出前を頼む関西将棋会館。沢山の食べ物屋さんの中で私が一番通ってしまうのが、福島駅からなにわ筋を北へ進み、福島六丁目のライオンの交差点の手前を、東へ一本曲がったところにあるイタリアンレストラン「ラ ルッチョラ」である。イタリア語で「蛍」。遅くまで光(電気)をつけて待っていますよ~、とゆう意味らしい。ランチも営業していて、夜は六時から十二時まで。コースからアラカルトまでメニューは豊富だ。毎日変わる手書きのメニューから選んでもいいし、いくらの予算でいろいろ出して、でも二軒目やからワインとチーズでいいわ、などと客のワガママを聞いてくれる。

 鈴木浩治オーナーシェフは、滋賀県出身で、高校を出てヨーロッパに単身乗り込み、帰ってきて関西で何軒か回り、中央卸市場の名門魚屋で魚の修業をして、海鮮を得意とするイタリアンのこの店を二〇〇二年にオープンした。新鮮な季節の魚のカルパッチョ、琵琶湖の本鰻の炭火焼き、手長海老の香草焼き、カラスミのパスタ、濃厚トマトスープに、最後のデザートも楽しみの一つで、六甲「弓削(ゆげ)牧場」の蜂蜜のかかったパンナコッタと、半熟チーズケーキ、ワインを合わせてもらって食べるのが、毎月の楽しみだ。お腹がいっぱいでも、まだ食べたい。お腹がアレても構わない美味しさ。

 また、鈴木氏は関西で、喋りながら料理を紹介する番組も持っているお喋りシェフで、若い女の子グループからお美しい仲良しマダム友達、熟年夫婦、いやいや男性一人でも、シェフと喋りながら料理を楽しむことができる。みんなが大好きになる人タラシだ! 家族とも、親友とも、仕事仲間とも訪れる、一生通いたいお店だ。

ラ ルッチョラ
大阪府大阪市福島区福島6-9-17 レジオン福島1階
TEL 06(6458)0199